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朧月夜と蒲公英 十六
「う……わ……」
真っ赤な沸騰ヤカンのような紫呉は、視線を逸らすと口を大きな手で覆った。
初々しい反応で、楽しかったのだけどそれはすぐに終わりを告げる。
紫呉の目に、大粒の涙が溜まったから。
「え? あの」
「……俺が告白したとき、すげえ辛そうだったじゃん」
腕で目をごしごし擦ると、そのまま目を隠す。
「だから、好きって気持ちが楓を傷つけて格好悪いって思ってたのに、ずりい。そんな許すような行動、ずるいだろ」
「紫呉さん……」
確かに私の持っていないモノを持っている、自由な紫呉さんに嫉妬したかもしれない。
行き場のない、初めての感情に揺さぶられた。
恋とか愛とかではなくて、もっと複雑な感情だった。
でも。
そんな耳まで真っ赤にして泣く君は、――まるで初めて会った時からずっと変わらない純粋な子供のようだ。
口を吸うだけで後ろにひっくり返ったあの日の紫呉が思い浮かぶ。
「――したい、吸いたい」
大きな腕でもう一度目を擦ってから、こちらを見る。
ああ、愛しいと思った。私の可愛い子どもだと。
「教えてあげましょうか。こうするんです」
一歩手を出して身を乗り出す。
すると紫呉の大きな手が肩を引き寄せた。
「知ってるから、いい」
「――っ」
恋でも愛でもないのに、口を擦りつける。
愛しい可愛い、紫呉に。
外にいたせいで、紫呉の肉厚の大きな唇はかさかさに乾燥していた。
が、何度も重ねていくうちに、しっとりと濡れていく。
それが不思議で目を閉じずにいたら、赤い舌で濡らしているのが見えた。
吸うというよりも、くっつけて離して、もう一度くっつけてと、御飯事みたいなリップ音が響く。赤い舌が見え隠れするのに、閉じた私の唇を割って入っては来なかった。
「なんで、抵抗しねえんだよ」
「あー……嫌じゃないです、し」
少しでも肩を押したら、後ろに倒れて泣き出しそう。
それぐらいくしゃくしゃで情けない顔をしているのを、気づいていないのだろうか。
「嫌じゃない? ワンチャンありまくり?」
「わんちゃん?」
「子どもみたいに可愛いなって思ってんだろうけど、それだけで終わらせないよ」
引き寄せてきた彼の身体は、温かい。足が少し寒いと思っていたのだけど、腰を引き寄せていた彼の手が、ゆっくり下に降りていくと、バランスを崩し倒れこんでいた私の足を撫でた。
それだけで、少し温かく――。
「な、だ、だめです。どこに手を――」
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