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朧月夜と蒲公英 十七

足を触ったのではなく、浴衣の合わせの割れ目から上に今度は撫で上げてきた。 もう少しで下着に触れそうで、慌てて暴れて引きはがす。 「……ちょっとちんこに触ってみたかっただけだって」 「ち!?」 下品な言葉に、頭がくらくらする。 せめてもっと比喩するか、直接的な言葉は避けて欲しい。 「だって楓が、すげえ俺のこと母性溢れる目で見るんだもん。キスしたんだから、もっととろんとしてみて欲しかった」 「でも、キスできたから良いじゃないですか」 だめ? 首を傾げて聞くと、『……襲うぞ』と小さく言葉が漏れる。 「なんでキスを許しちゃうかなあ」 「うーん。やっぱ私は理由を付けても、紫呉さんには甘いんですよね」 よしよし、と頭を撫でると、尻尾が振っているように見えた。 「……本当は、自分が叫ばないといけないのは分かってるんですよ。ただ、それより先に紫呉さんの方が怒っちゃうから、だからきっと私は、それで満足しちゃうんですね」 「満足しないでよ」 「そうですね」 紫呉が私の浴衣の帯を掴んで、小さくクイクイ引っ張る。 簡単に解けてしまう帯を、解くことは簡単なのに、耐えていた。 紫呉の言っていることと、やっていることは滅茶苦茶で振り回されてしまうのに、そこまで嫌じゃないのは、根底に私への好意が見えるからだ。 声をあげて泣きたくなるほど、彼は私の心を揺さぶるような情熱的な気持ちを持っている。 誰にも邪魔されることなく、持っている。 「……解いてもいいですよ」 「挑発しないで。解くだけじゃ済まないでショ」 「そうですね」 でもこんなに霧がかかった朧月夜の下、ぼんやり見える私の身体がどうだというのだ。 「あーあ……あのベットの上で、楓の着物を脱がして、エッチしたい」 「下品」 ごろんと寝転がった彼は頭をズってきて、私の膝の上に乗せる。膝枕が好きなのだろうか。 ちょうど足が寒くなくなったのでこれはこれでいいか。 「結婚しようよ、楓」 「しません。結婚なんて煩わしい」

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