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花開く/花散る 二
Side:紫呉
つい零れ落ちた本音に、楓が戸惑って俺を不審者のように見えがるので焦った。焦ったのに時すでに遅し。
「紫呉さん。嫌い」
「ええええ? ちょ、嘘ってば。かえでー、あいしてるー」
さっきまで縮まっていた距離が、引き離されていく。
楓は一度も振り返ることもなく自室へ帰って行ってしまった。
晤郎が邪魔しなかったら、あのピンク色の可愛い乳首に触れていたかもしれないのに。
「晤郎、タイミング悪すぎる」
「そうですか? 色々といいタイミングです」
どっちの話だよ。聞く必要もないぐらい、晤郎の顔が穏やかで冷たい。
「愚弟は、子どものいない楓さまに養子の提案をする予定です」
「は? 愚弟、子供いるの?」
「……昨日、生まれたそうです。双子が」
昨日生まれてすぐに養子に出せるのがすごい。
全く自分の子どもに愛情がないんじゃないだろうか。
けれど、孤児である晤郎、施設育ちである俺たち、――親に女と育てられた楓には、養子なんて絶対に了承しないことは明らかだろう。
楓にしてみれば、自分が名付けられるはずだった名前の弟の子ども。
知れば傷つくのは火を見るよりも明らか。
せっかく楓から手を伸ばしてくれそうだったのだから、邪魔だ。
「そんぐらい金に困ってるってことか。チャンスやないんか、紫呉」
きつく結んでいたはずの縄をすべて解き終わった絢斗が、肩を回しながら笑う。
「そうですね。じわじわと追い詰めるために、最近は全くお金は貸していません。子どもが生まれたなら、優しい楓様はいくらか包むように指示するだろうけど」
「伝えるつもりはねえよな」
望まれて咲いたのに、誰にも見られない山奥でひっそりと花を咲かせている薔薇に、朝露ではないモノで濡らすつもりはねえんだよ。
「決まりだな。おれんちの弁護士呼ぼっと。脅しにはちょうどいい」
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