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花開く/花散る 十一

俺の親は金が無かっただけで見捨てはしなかったからまだましなのかな。 こんな広い屋敷に、旦那が亡くなってもずっと一人でいた楓。 よくもまあ、そんな楓に自分たちの幸せのために会いに来れるよな。 「……来たみたいです。門を開けてきます。そこのチビ」 「絢ちゃんって呼べや」 「楓さまを頼みますよ」 晤郎は億劫そうに門まで歩いていく。 この人も苦労性で可哀そうだな。 そこまでして守りたいって、楓に一体何をしたのか気になるところ。 「おい、紫呉、やっべーよ」 門の方から大きく手を上げて、絢斗が口パクで何か言っている。 ――姐さんの母親、めっちゃ美人。 「……」 こんな時に、よくもまあそんな緊張感のないことを言えるよな。 「弥生さまこちら」 だが、晤郎が手を差し伸べた女性は、上品なシルクのワンピースに身を包み、肩まで伸ばした長い髪を靡かせながら、儚げに佇んでいた。 風に乗って舞う桜の木を見上げたその顔は、楓の顔に瓜二つ。 楓が女性だったら、あの人のようになっていたのだろうか。 そして――弟の旺。 こちらも似合いもしないブランドスーツに身を包んでいる。 全く緊張していない様子が腹立たしい。 ふてぶてしく歩いていくが、母親がふらふらなのに手を貸そうともしない。 楓にも似ていなかった。生意気そうな狐みたいな顔に、色素の薄い茶色の髪。 依然、あいつに『雲仙寺の財産を貰えると思うなよ』と弁護士と一緒に言われたことが会ったっけな。 「紫呉。……もう縄を解いてもらったんですか?」

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