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花開く/花散る 十四
その瞬間、怒っていた楓の顔から表情が消えた。
しんっと静かになった部屋の中、ホラー映画の主人公の叫び声だけが響いている。
水を打ったような静けさの中、楓が小さく息を吐く。
「この屋敷に、女性はいません。おかしな人だ」
「そだね。俺の目の前にいる人は、綺麗だけどちんこある――いて」
鉄パイプではなく、座布団が飛んできた。
けれど、さっきまで騒いでいたはずの楓は、大人しく座布団の上に座ると、テレビの音量を上げる。
急に口数が少なくなった。
「あのさ、楓」
「なんですか?」
「母親と父親がもし会いに来たら、どうすんの?」
テレビには犯人が断末魔と血を吐きながら転げまわる映像が映っていた。俺でも目を覆いたくなるような無残な描写を、楓は瞬きもせずにじっと見ている。
そこにどんな感情があるのか、俺にも教えて欲しい。
「父とは、16の時から会っていません。母は何度か手紙が来ていましたが、読んでいません。今更会うとしても、私には理由がないですね。お金のことぐらい?」
首を傾げた楓が、再びおせんべいに手を伸ばす。
「母は、花街出身で結婚に反対された折に、父の知り合いの家に養子になってから結婚をようやく許してもらったっていう経緯があったらしいです。なので、――はなから頼れないって分かっていたし。彼女が私に会いにくるってことが全く想像できません」
「そっか。もし来たら、俺が全力で追い返していい?」
「……そう、ですね。いいんではないでしょうか」
スタッフロールを眺めながら、楓はこっちを見ない。
これ以上は聞かないで欲しいと横顔が言っている。
急に閉じた花みたいに、表情も感情も隠れてしまった。
「姉さん! なんで会ってくれないんだよ!」
「……曽我さま。いい加減にしてください」
「たった一人の、血の分けた姉弟なのに、どうして会わないんだってば」
曽我?
初めて聞く名前だ。楓の旧姓なのだろうけど、楓から実家の話しなんて聞かないので、違和感しかなかった。
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