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花開く/花散る 十五

「……一生、会いに来るんですかねえ」 「楓がお金持ちじゃなくなったら、会いに来ないんじゃない?」 「あー……そうですねえ」 「うざってえね」 「うざいというか、煩わしいです。晤郎にも毎回迷惑かけて、ソッとしておいてほしいのに、どんな躾をされたんでしょうね。私と違って自由で甘やかされてそだったんでしょうかね」 「……」 まだ騒がしい声が聞こえてきたけれど、絢斗が『黙れや』と低い声で諫めるのが聴こえた。 そこから、言い争いの声が小さくなって、襖が閉まる音を最後に静かになった。 「どうなってるのか、ちょっと野次馬してくる」 「止めときなさい。君は、愚弟に顔が割れてるんでしょう。タダさえお金がなくて心が貧しくなってるときに、攻撃されに行く必要ありません」  俺があいつに何か言われるかもしれないと、心配してくれていたのか。 だから裸で追いかけてきた相手である俺を渋々居間に入れてくれたり、向こうに行かせないように縛っていたりしてたんだ。  楓の中では俺は、今も守ってあげたい子どもってわけね。 「攻撃できないでしょ。弱ってるんだから攻撃力なんてねえよ。ちょっと見てくるだけー」 楓にはいまはまだ言わないけど、俺はもう貴方に保護されてご飯を貰っていた子供ではない。とっくに貴方の横に並びたいって思っている男なんだ。 客間に向かう。 縁側から、ほぼ緑の葉に色が変わっている桜を見ながら深呼吸をした。 楓は気づいているのかな。誰一人、弟の名を呼んでいないことを。 多分、楓の前では絶対に死んでも名前を呼んでやらない。

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