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花開く/花散る 十六
客間に入ると、母親の姿はなく絢斗と愚弟くんが睨み合っていた。
「姉さんに会わせてくれよ。納得できない。うちと雲仙寺が結びついたのは、利害関係が一致したからだろ。うちの名前を使わせてやる代わりに、援助するのは当然だ」
「ですから、それを雲仙寺の社長に言ってください。そのままを言えばいいでしょう。なぜ楓さまをそっとしてくださらないんですか。楓さまは、そんな利害関係から一番遠い存在です」
「姉弟なんだから助け合うべきだ。自分の家が衰退していくのに、自分だけこんな屋敷でぬくぬく守られるのは違うんじゃないか」
貪欲で傲慢で、愚かで見ていて痛々しい。
過去の栄光に縋っているが、曽我家の財産なんてすっかすかで何もないんだろう。
「貸してあげればいいじゃん。晤郎」
「君は黙っていなさい」
「俺が次期雲仙寺の当主かもしれないし?」
絢斗の隣に座ると、訝しげに俺を見ていた愚弟が段々と顔を険しくさせる。
「なんでお前がここにいるんだ」
「里帰り。ここは俺の家でもあるし。楓とご飯食べて、庭を散歩ぐらいする」
不機嫌になっていく愚弟が面白い。地獄におとしてやりたい。
「晤郎は貸さないよ。あいつ頑固だから、楓を大切にしなかった実家に一円だって払いたくないでショ。でも俺は楓に恩があるし、貸してあげてもいい」
へらへらと、信用のない嘘くさい笑顔を浮かべて、挑発するように笑った。
乗るも地獄、乗らぬも地獄。
「晤郎、俺にもお茶」
「入れてまいります」
晤郎が席を立つと、内心笑い出したいのを堪えて絢斗と一緒にもっと奥まで踏み込んでいく。
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