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花開く/花散る 十八

「約束?」 「貴方と会ってはいけないと、夫に言われていました」 酷い話だ。どんな経緯があって、実の家族が会いに行ってはいけないんだろう。 「もう夫は長くありません。旺では、曽我が築き上げた信用や歴史を受け継ぐことはできないでしょう」 「私には関係ない話ですよね」 今更、そちら側の家がどうなろうと私には関係ない。 情に訴えようとしないでほしい。それはなによりも滑稽だ。 「お葬式にもきっと参加しないような私のことなど、もう二度と思い出さないでください」 深くお辞儀をすると、彼女の目に映りたくなくて避けるように歩きだす。 けれど、彼女はまた私の名を呼んだ。 「楓さん。曽我はもう貴方に金銭の援助をしていただいても無駄です。なので雲仙寺の株は貴方にいくように私が上手く手配します。……夫が亡くなったら、貴方は今度こそ自由になってほしい」 「――それを貴方が私に言うのですか。自由になれと。何も自由を与えなかった貴方たちが」 「……聞いてください。私には花街時代の妹がいます。夫にも内緒で連絡を取っていました。彼女を頼って。何もかも捨てていいのならば、彼女を頼って」 私に伸ばされた手には、ボロボロの紙切れが四つ折りに畳まれていた。 彼女は、私にその手を精一杯伸ばす。 縁側には上がってこようとしない。 今更だ。今更だ。 「……一度だけ、私も貴方みたいに手を伸ばした時がありました」

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