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花開く/花散る 二十

ノックもせずに飛び込んできた紫呉が、倒れ込む私に触れた。 「……弥生さんが部屋に戻ってこないからおかしいと思ったんだ。ごめん。追い払うって言ってたのに、ごめんな。何を言われたの?」 「……出て行って。一人の時間をください」 「絶対に嫌だ」 乱暴に障子を閉めると、彼は私の元へ近づいてくる。 「楓がそうやって丸まって泣くのは、誰にも心を許せないから。じっと我慢してやり過ごそうとしているならば、俺がいるんだからそんな行動させない」 軽々と抱きかかえられると、畳から足が浮いてバランスが取れずあたふた動く。 そんな私を抱きしめると彼は何度も背中をさすってくれた。 髪を撫で、背中をさすり、鼻を擦り合わせる。 子どものあやし方に、思わずわらってしまいそうになる。 そっか。彼には今、私は赤子のように見えるのか。 「今のね、忘れたかもしれないけど、全部楓が俺にしてくれたことなんだよ」

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