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花開く/花散る 二十二
「あ、エンジンの音。帰っていくんですかね」
「聞こえんの?」
「はい。珍しい音には敏感なんです」
押し付けるように胸に埋めていた顔を上げると、新鮮な空気に触れる。
紫呉は、体温も、空気中の熱も上昇させてしまう。
「今日は、早かったです。いつもなら夕餉前まで粘るのに」
「楓に会えたから、満足したんじゃない?」
なるほど。弥生さんの渡したいものを渡したのでさっさと帰ってくれたわけか。
でも、もう二度と会いたくないので、接近禁止を条件に最後に手切れ金でも渡すべきだろうか。
強欲な愚弟は、私の財産の受け取りが減るので、紫呉が近くにいるのを嫌がるだろうし。
「……不安そうな顔してるけど、色々考えなくても大丈夫だよ」
「どうして?」
「もうすぐあの家はおしまいになっちゃうから。もう悩まなくてもいい」
抱きしめられながら、また顔を肩に乗せて、……エンジンの音が消えていくのを確認する。
そういえば弥生さんも、も曽我家は駄目だと言っていた。
本当に崩れ落ちて、消えてしまうんだ。
「私ね、……父親である方が具合が悪いと、弥生さんに教えていただいたのですが、全く心が動かなかったんです」
するりと、紫呉の背中に手を回す。
するすると擦ると、紫呉の甚平から太陽の匂いがした。
「私はきっと、ここに閉じ込められたから性格がねじ曲がっています。弥生さんも父親も、きっと私は……死んでも悲しいとは思わない」
テレビの中の、無残に殺されるホラー映画の登場人物みたいに、どこか他人のように思う。
「だから、貴方はもう少し心の通った相手を好きになった方がいい。私はまともでは――」
「楓はまともだよ。自分を捨てた親に、なんでまだ何か期待するの。する方がおかしいよ」
「……紫呉さん」
「楓は、父親と母親だった二人や、愚弟くんが死んでも感情はもたないかもしれない。けど、俺と晤郎は?」
「お二人は……」
私のために心を砕いてくれる晤郎に、決して私の手を振り払わない紫呉。
「二人なら絶対に、泣く。離れたら、私の心のバランスがおかしくなる」
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