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花開く/花散る 二十三

「……そんなに俺のことも思ってくれるの?」 「私が育てたから、ね。晤郎曰くですが」 「まだちゃんと育ててはないけど――じゃあ、もういいよね?」 上体を少し上げて、胸の間に距離ができる。 見上げた紫呉は、世界の誰よりも優しいまなざしで私を見ていた。 私の小さく狭い世界の中で、これほど優しく私を愛し気に見る人はいなかった。 「今夜、三日目だから。楓の心を本当にさらっちゃうからね」 額に口づけを落とすと、太陽の下にいるような温かい匂いに包まれて幸せを感じた。 流れ落ちるように、私の目の前にやってきて、溢れんばかりに大きくなって、今、愛情で私を満たそうとしてくれている。 「今夜――晤郎が絢斗が、楓が寝たのを確認してから朝方まで抜け出す。確認済みだ」 「な、なんで?」 「手切れ金だ。でも金を貸すのは絢斗。だから手続きにね」 なぜ絢斗さんが? さきほどの短時間でどうしてそんな状況になったのだろう。 「俺が嫌なら朝まで起きてたら、二人は出かけないかもね。でも――俺は楓に会いに行くから。障子が仕舞っていても屛風や蚊帳があろうと、全部薙ぎ払って、楓を触りに行くからね」

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