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花開く/花散る 二十四

今夜、迎えに行くね。 紫呉はそう優しく言った。 優しく、風で花びらが散らないように心にだけ聞こえるように小さく。 当然、食事は喉に通らず、心配した晤郎が野菜ジュースをミキサーで作ってくれるほど。 当の本人は、お代わりをしてさっさと自室へ向かった。今日一日の仕事が山のように残っているのだと、理由を言いながら。 「どうぞ、楓さま」 「ありがとうございます。晤郎さん」 野菜ジュースの入った冷たいグラスを受け取ると、深緑色の液体を揺らす。 晤郎の野菜ジュースは、青臭くなくてほんのり甘い。 何を入れたらこうなるのだろう。 「……弥生さまに会われたそうですね」 「え、あ……はい。でも、どうしてだろう。晤郎さんの方が家族って気がしました。弥生さんは、私に情はあるのだろうけど晤郎さんや紫呉さんみたいに傍に居てくれないからかな」 「そうですね。あの人は色々と立場が辛いだろうから、自分が加害者だとは知らないでしょう」 加害者……。そこまであの人をみるつもりはない。 けど、もう視界には入りたくない。 「晤郎さんも、私がちゃんと女性なら旦那様との関係をすっぱり諦められたでしょうし。私を恨めばよかったのに」 「その話は何度目が分かりませんが、何度でも言います。俺は、旦那様の代わりに貴方を守ろうと決めていますので。……きっと紫呉も」 名前を聞くだけで、心が震えた。 知ってしまったから。紫呉の心も体も言葉も、真っすぐで嘘がなくて、温かい。 触れたら火傷しそうなほどの情熱を孕む。 彼を思い出すだけで、薄暗く不気味な夜の庭が、キラキラと花が咲くよう。

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