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伸ばされた手に頬擦りして。

紫呉の部屋の方から大きな音がしてくる。 あの音が此方に向って来たら、私は紫呉と――。 今更になって自分が何をしているのか分かって慌てだす。 障子を閉めて、屛風で目隠しし、蚊帳を上から下げて布団の中に隠れる。 唇はひりひりと熱く、全身が動機と共に熱くなっていく。 紫呉の足音が、響いて心臓が止まるかと思った。 こんなに紫呉の足音が大きいと、館中の花が散ってしまうのではないか。 そんな風に思ってしまうのは、彼の音に全神経を持っていかれている身体。 触ってほしい。怖い。 今から抱かれる。その意味を知っているのに、必死で体を丸めてしらないふりをする。 怖いのに、私の身体は疼いていた。幸せになっていいかと、身体の奥から紫呉に触れたくて疼いている。 荒々しい情熱的なキスのせいだ。 熱に酔っている。雰囲気に流されているだけ。 そう思っているのに。  走ってくる足音が部屋の前でやむ。 開いていた障子が再び締められていることに気づいたんだろう。 「楓、今更可愛い抵抗しても無駄だから」 大きく開いた障子が、再び大きな音を立てて閉められる。 息を飲む音が部屋に響く。 屛風が倒されて、ビリビリと蚊帳が引き落とされ、布団を浚われた。 「楓」 真っ暗な部屋の中、彼の声が甘く落ちてくる。

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