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伸ばされた手に頬擦りして。二
「嫌なら逃げて。焦らさないから」
布団の上を探られ、彼の手が私の手を掴むと、柔らかい感触が当たる。
口づけをされていると気づいたのは、乱暴に閉めた障子がうっすらと開いて、そこから月の光に照らされて彼の輪郭に目が慣れてきた時だ。
一度だけ伸ばした手は、長く影を落とし私を包み隠す。
触れてみたかった。触れて欲しかった。誰かに『欲しい』と『必要』とされたかった。
伸ばされた手は一度も掴んでもらえず、頭を撫でる偽りの優しさだけで私は生き永られさせられる。
ただ一つ、願ったことさえ叶わないまま、私は偽りの人生を歩む。
『なあ、楓。くちをすうってどんな意味?』
私が縁側に置き忘れた本を読みながら、紫呉が言う。
まだ幼い、私の可愛い紫の君。
『こうするんですよ』
だた一度、教えるためだけに唇を寄せた。私は、一度も貰えなかったものだから。
月明かりに照らされて、縁側に伸びる長い影があの日の宙をさ迷う私の手を思い出させるので、この子だけには同じ思いをさせたくなかった。
私の代わりに幸せに。
「楓――好きだ」
今、その少年の唇が私の喉に食らいつく。
着物の合わせ目を乱暴に開かされ、彼の体重を感じつつ首に甘い痺れが走った。
最初は唇。次は、朝腫れて苦しいと股間を押さえていた彼に手ほどき。
旦那様とは正反対で、ぼてぃだっちの多い甘えん坊の子どもだった。
のに今は違う。大きく広くなった肩を押しやる。
雄臭く滴る汗に、低くなった甘い声に、頭一つ大きくなり覆いかぶさっている君。
乱暴に蚊帳を薙ぎ払い、屛風をなぎ倒し、布団の上でわたしを組み敷いている。
夜の暗い部屋の中、興奮と緊張で乱れる荒い息が肌にかかる。
「なあ、楓。気持ちいい?」
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