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ぴろーとーく 六
「紫呉さんはそうやっていつも私のことばかり考えてくれていたのに、私は自分のことばかり」
「そんなことねえよ! 寧ろもっと貪欲に生きて欲しいぐらいだ」
質素に生きなくても、都内に城みたいに大きな屋敷を建てて一生遊んでくらせるぐらいの財産があるのに。
「でも、さっきから手で刺激しても下手なせいで、全然君、イケそうにないし。ほんと知識だけの頭でっかちは駄目ですね」
「下手なほうがグッとぐる!」
寧ろ上手かったら色々と勘ぐってしまうじゃん。
なんて、話していると楓の笑顔を見ていたら、俺の108の煩悩が散って消えていく。
それぐらい柔らかい笑顔だった。
「あらら、私の人差し指と親指で持てるぐらいになっちゃいましたね。どうしましょう」
「いちゃいちゃしましょう!
ようやく、楓に頭を洗ってもらった。
身長の差があるので、少し屈む。
楓が必死で手を伸ばしてくれているのに、俺の思考は脇を舐めたい、だったのは内緒にしておこう。
「楓、……俺、すげえ幸せ」
「突然なんですか。私もですよ」
クスクス笑いながら、俺の髪を泡立てた後角を作って楽しそうだった。
楓に言えないことはたくさんあるよ。
本当は中学の時、全寮制の学校に入れられて――捨てられたんじゃないかって不安だったこと。俺と一緒に居たくなくて離したのかなって。
でも電話の先で、いつも俺の近況を嬉しそうに聞いてくれた。
外の世界を知ってほしかったと、自分のことではなく俺のことを一番に考えてくれての選択だって今は分かってる。
だから俺も、――楓が閉じ込められた世界の異常さを知った。
「ねえ、紫呉さん。このアヒルの玩具。一匹だけ傾いてすぐにひっくり返ってしまうんですが」
「ああ。不良品かな。それ五つで百円だから仕方ないよ」
「……じゃああのアヒルだけ私が手で支えてあげましょうか」
「……」
そんな優しい言葉が、この生活の中で零れ落ちる。
俺はそんな楓が好きなんだ。
「楓! お風呂の中でイチャイチャしよう。楓はアヒルを支える! 俺は楓の胸を揉み支える! おーけー?」
「ふふ。いえーい」
髪の泡を流してもらいつつ、俺も体を洗おうと奮闘したが逃げられたので諦めて先に湯につかった。
手を、揉むためにわちゃわちゃしていたら、シャワーの水が飛んできたので水の中でこっそり練習に切り替えた。
「そういえば、紫呉さん髪の毛切らないんですか?」
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