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俺の好きな人が不器用すぎて愛しい。一

その日は、朝まで一緒に眠った。 俺の腕枕は大不評。硬い、首が痛い、大きい、邪魔、眠れないと散々に言われた。 さきほどまで天国が見えていた俺には、地上どころか地獄に落とされた気分だった。 「紫呉はご飯は作れますか?」 「もちろん。俺は大学時代、ずっと自炊してたから。あ、朝ごはん?」 晤郎がオカズは用意していたしご飯は、起きたら炊けているはず。 なのに楓は少しわくわくした、悪戯っ子みたいな子どもの目をする。 「実は、台所は絶対に晤郎に手伝わせてもらえなかったんです。女性みたいな真似はしないでいいと。女性として生きてきたのに酷いでしょ? 私だってまな板をとんとんしてみたい」 「つまり料理を作りたいと」 「目玉焼きぐらいなら私もできますよね?」 ぴとっと、俺の胸に手を置いて見上げてくる。 風呂上がりの、艶っぽい楓が俺を布団の中から見上げている。 くそう。抱きたい。 「ねー紫呉さん、駄目ですか?」 しかも、どこで覚えたんだよ。甘え上手かよ。 料理教室に通わせてやりたいぐらい可愛い! そして、嬉しくて震えていた。 楓が自分の意志を、伝えてきた。 あれがしたいとか、あれがほしいとか、自分の気持ちを言わない楓が、俺におねだりをしてきた。 「いいけど、一つ条件がある」 「なんですか?」 「俺にも作って。楓の初めての料理を食べる権利をもらいたい!」 「もちろんですよ。私が作りましょう」 何故か自信満々の楓が、どやった顔で言う。 が、玉子さえ触ったことがない人間がなんでそんなに自信満々なんだ。 俺には理解ができなかった。

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