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俺の好きな人が不器用すぎて愛しい。四
フライパンには、真っ二つに割れた殻ごと焼けていく卵が見える。それを呆然と見ている楓は、すぐに狼狽えだした。
「と、取り除けば食べれる!」
「いいよ。俺が食べる。楓の初めての手作りは俺が食べる予定だったしね」
「でも殻が入ったどころではなく、殻丸ごとですよ」
青ざめた楓の頬にチュッと音を立てて吸い付いた後、フライ返しを渡す。
「カルシウム」
「カルシウム!」
なるほど、と納得してくれたので万事休す。
見事フライ返しではぎ取った殻ごと焼きを皿に乗ぜて奪還した。
写真撮って待ち受けにしようと思っている。
楓の分は失敗させないようにボウルの中に割らせて、フライパンに流し込ませておいた。
「難しいですね。せめてご飯を装います」
「任せた。杓文字は水に乗らしてから使ってね」
冷蔵庫を開けたら、晤郎が作ったであろう朝ごはんのメニューに卵焼きがあったので急いで全部口の中に入れて隠滅しておいた。
「何食べてるんです?」
「あ、や、ほれ、ウインナー発見した。タコさんにしてみろよ」
「はい!」
が、ここで問題なのは晤郎の包丁は高級で切れ味がものすごくよい。
偶に自分で研いだりしているし、あれは流石に初心者の楓には扱えないだろう。
なので、ナイフを渡した。
「これ、ナイフですけど」
「ウインナーの足は、包丁じゃなくてナイフの方が上手く切れる」
「そうなんですか」
「で、フォークで穴開けて黒ゴマを埋め込むと目にもなる」
ピンセットを探すと、魚の骨抜き用のを見つけてそれで一個見本を作った。
すると、楓は包丁ではなくてナイフで少し不服そうだったのはどこへやら。
夢中でフォークで穴をあけて胡麻を入れていく。
可愛い。
可愛いが……。
業務用のウインナー一袋をタコウインナーに変えてしまった。
どうする気だろうか。お昼ご飯もウインナーか。
俺が食べるしかないのだろうけど。
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