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Romeo4

 ルルルッ、ルルッ、1.5コールで、繋がる。 『碧?』 「あ、舛添さん?ごめん、遅くなった…」  床にしゃがみ込んで、何となく、内緒話みたいに声を潜めてしまう。まだ湯気が出そうなほど身体が火照っているのだが、とにかく、一刻も早く定期コールだけは終わらせてしまいたい。 『舞台挨拶は、ちゃんと終わったのね?』 「終わりました…」  答えながら、横目に永久の脚が見えてつい顔を上げると、 「目の毒」  通りざまにばさりと毛布を掛けられる。そう言う彼も全裸なのだけど、その後ろ姿が落ちつきなく煙草を探しているので笑ってしまった。 『碧…もう家?』 「や、まだ外」 『そう。じゃあ明日のスケジュールの変更なんだけど、今言わない方がいいわね』 「あ…いいよ、今聞きます」  手を伸ばして、リュックの中から手帳を取り出す。 「どうぞ」  ふい、流れてくる、煙草の匂い。  一瞬、電話越しの舛添の声が遠くなる。 「舛添さん、ごめんもう一回」  苦労して正気を保ちながら、なんとか、マネージャーとの電話を終えた。  毛布の前を掻き合わせて、立ち上がる。 「永久…」 「ん?」 「俺、しばらく東京離れます。撮影に入っちゃうんで」  永久の目が丸くなり、すぐ、戻る。 「そっか。あ、しばらくって?」 「はは。年末には帰って来てると思うし、正確には、行ったっきりじゃないから。行ったり来たり。ただ、あなたに合わせるのは難しい」 「俺はここにいるよ。きみのしばらくの間は、きみに合わせる」  永久の指に挟まれた煙草からゆらゆらと立ち昇る煙を、うっとりと目で追う。 「ありがと」 「どういたしまして…じゃ、明日からしばらく、会えねーのか」  煙草を咥えなおしながら、くぐもった口調で言うので。碧は事実を打ち明けることにした。 「明日なんて、一言も言ってないよ」 「え?」 「明後日からに変更になった、今。明日一日オフだって…俺は、だけど」  はははっ、軽快な笑い声が、部屋じゅうに響き渡る。 「わかった。きみに合わせる」 「ありがと」 「どーいたしまして」 <終わり>

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