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「なんか…丸め込まれた気がする…」
結局上手いこと言いくるめられた感の否めない金曜の夜から、時は日曜のお昼へ。
柚さんは最近日曜日にも頻繁にバイトを入れるようになった。昨日の夜も誘われるがままエッチした所為で、朝起きられず「いってらっしゃい」が言えなかった。
落ち込む俺ではあるが、このまま柚さんの家にいても特にすることがないので荷物を持って家を出た。
歩きながら柚さんの台詞を思い出す。「僕と会う時間、減ってもいいんだ」って言ってたけど柚さんだって日曜バイト行っちゃうじゃん、と聞き分けのない子供みたいな事を考えてしまう。
分かってるんだ。
俺と柚さんのバイトに対する意識が違うって。
一人暮らしの費用はなるべく自分で賄いたいと言っていた。土曜は必ず丸一日開けてくれるのだからこんな事を思うのは無意味だ。自分がただ拗ねているだけなのは分かっているのに。
「喜んでくれると思ったんだけどなあ…」
というか、もしかして俺このまま卒業するまでバイトできないのか?それってちょっと問題ありというか…柚さんに奢ってもらうばっかじゃ男が廃るし情けない。
やっぱりもう少し説得してみるか…
◇ ◇ ◇
「お、誰かと思えば健気な純希くんじゃん」
「………」
自宅に荷物を置いた後、説得する前にある程度バイト先に目星を付けておこうと近所のコンビニに入ると、無駄にオーラのある黒髪長身が目に入った。すぐにUターンを決めようとしたのだが…無念。見つかってしまった。
馴れ馴れしくこちらに近付いてくるのは、数ヶ月ぶりに見る生徒会長だ。あ、元生徒会長ね。面倒臭いから未だに会長って呼んでるけど。
以前まで所属していた親衛隊の奴らなら大騒ぎしそうな私服の会長とのエンカウントだが、俺は全く興味が無くさっさと背を向けFreeと書かれた求人誌を手に取った。
「純希くん求職中?柚は知ってんのか?」
「あなたには関係ないです。俺に話し掛けないでください。接触禁止なんで」
「お前らとっくの昔に親衛隊から抜けただろうが。俺もう高校に居ねえし。つーかそんな冷たい態度とっていいと思ってんの?俺お前の大好きな柚サンの親友だぞ?大学も一緒で明日も会うんだぞ?恋人の親友に酷い対応するなんて最低だよなあ、言っちゃおっかなあ」
「……いいですよね!俺より一緒にいる時間長くて!」
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