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生徒会長を少しでも忘れさせて笑顔でいてもらう為とはいえ、ずっと片想いをしていた柚さんと晴れて恋人同士になれた俺の毎日は、幸せを超えた薔薇色の毎日となった。 お昼ご飯だけでなく、行きも帰りも柚さんと一緒に居られるし、今までなら休みの日になんて畏れ多くて誘うことかできなかったデートにも堂々と誘うことかできる。 触れたいと思っていた肌にも、手にも、髪にも…唇にだって、柚さんは嫌らがらず触らせてくれた。 俺の勘違いかも知れないけど、付き合うようになってから柚さんの生徒会長を見るときの表情が少し柔らかくなった気がした。今までの固い表情が和らいだのを感じ取った俺は、自分の影響だったらいいな、なんて生徒会長を見下ろす柚さんを後ろからそっと抱き締めた。 「お前が、柚の彼氏?」 ある日の放課後、いつものように柚さんが来るのを校内のベンチに座って待っていると、後ろから声を掛けられた。 何だかどこかで聞いたことのあるような声に振り返ると、そこに居たのは我らが親衛隊の推しメンズ――生徒会長。 いつの間に?と驚きながらも、はい、そうですが…と答えた。 親衛隊に入っておきながら会長には微塵も興味が無かったので、会長と直接対面するのはこれが初めてだ。 目力の強い切れ長の瞳に見下ろされ、柚さんはこの目も好きなのかな、と嫉妬にかられる。会長は、俺が柚さんの恋人だと認識すると何故か俺の横に座って来た。 「お前、俺の親衛隊に入ってるんだろ?」 「…まあ、一応」 「本人目の前にして、一応とか言うか?普通」 会長がククッと喉の奥で笑う。 様になる笑い方に勝手に敗北感を覚えた。 「…なにかご用ですか?」 「なあ、なんであいつなの?女みたいだから?あいつ俺が好きなんだぜ?それなのになんで付き合ってんの?」 「別に、あなたに言う必要はないかと…」 「言わなきゃ親衛隊から外すぜ」 「………」 正直外してくれてなんら問題はないのだが、そうすると柚さんと一緒に居られる時間が減ってしまう。そんなの嫌だ。 もちろん柚さんが親衛隊を抜けるとも思えないし… ――仕方ないか。 「……最初は可愛いな、と思って好きになりました。でも、途中から、あなたを一途に想う姿がじれったくて、愛しくて…守ってあげたいと思うようになったんです。ただ、それだけです」 「へえ。意外とまともな理由なんだ」 会長はヒュウと短く口笛を吹くと、突然俺の肩に腕を回して来た。咄嗟に思ったことは、これ親衛隊ルールの規則に反しないか?柚さんに見つかって後で怒られないかな?でも生徒会長からの接触なら確か問題無かったはず…、だ。 俺に顔を近付けて、会長が耳元で小さく呟く。 「柚には気を付けた方がいいぜ。しっかり見極めないと痛い目見るのはお前かもよ」 「は…?何を」 意味の分からないことを、と続けようとした俺の視線の先に、大好きで大好きでたまらない人の姿を見つけて、俺は会長の体を押し退け走り出した。 「柚さん!おつかれさまです!」 「………おつかれさま。純希くん」 いつもと違う少し低めの声の変化に、俺はドキッとして慌てて柚さんの手を握る。 「柚さん、さっきのはルール違反とかじゃないですよ!俺、自分からは触ってません!」 「じゃあ、会長から触って来たのかな?」 俺の手を握り返してくれたものの、柚さんの顔は目が笑ってない。こんな顔初めて見た。でもそんな柚さんも可愛い。キュンとしてしまう。 「おいおい。親衛隊の癖して、俺の前でイチャついてんじゃねーよ」 「おつかれ、会長」 「柚、お前隊長様だろ。俺がいるっつーのにいいのかよ、そんなやつと付き合って」 「親衛隊同士で付き合ったらダメなんてルールないしね」 「ああ、そう」 仲が良いという噂通り、気さくに話す2人に俺は柚さんの手を無意識にギュッ…と握り締める。それに気付いて柚さんが俺の方を向いてくれた。 「どうしたの?」 「あ、いえ…。あの…」 もう、帰りましょうよ。 柚さんは俺なんかよりもっと会長と話したいのかも知れないけど、俺は…嫌だ。 早く柚さんをこの場から、生徒会長から離したかった。 「…今日は随分甘えんぼなんだね。いいよ、帰ろ」 「いいんですか!?やった」 許可が降りたなら善は急げだ。 俺は握ったままの柚さんの手を引いて校舎の外へと歩き出す。 会長もそんな俺たちに興味を無くしたのか、すぐに反対側の校舎の方へと戻っていった。

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