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11 | yuzu side

最初初めて会った時、珍しい奴が入ってきたなと思ったんだ。 顔だけは男前な生徒会長サマの親衛隊に入りたいだなんて言う奴は大抵俺みたいに華奢で女みたいな顔をしてる奴が多い。 純希は女みたいな顔もしてないし、性格も女々しくなく、どちらかというと元気でいかにも男子って感じの奴だった。 そんな奴がわざわざ生徒会長サマを慕って入ってくるなんてよっぽど惚れてんだな…なんて珍しいもの見るように接していたのをよく覚えてる。 純希が親衛隊に入ってから、何故か俺は懐かれたようで、たびたび声を掛けられ一緒に過ごす時間が増えていった。 でも、純希はあれのどこが良いのか逐一、生徒会長サマの動向をチェックし俺に知らせに来てくれる。 あいつが何してるかなんて興味ねえけど、あまりにも毎回嬉しそうに言ってくるから仕方なく聞いてやってた。 それにあいつが何してるかなんて、だいたい分かってる。惚れっぽく飽きやすい人間だ。 校内で見つける度に、違う男を連れ歩いていて「またか」と呆れ、つい真顔になってしまう。1人に絞ればいいものを、あれもこれもと手を出すから親衛隊の奴らがキーキー言い出してそれを抑えるのに手を取られる羽目になるんだ。この俺が。 本当に腹立たしい。 「純希くんは生徒会長のどこが好きなの?」 あんな誰でも彼でも手を出す男のどこがいいのかと不思議に思い、昼御飯まで一緒に食べるようになった純希に聞いてみたことがあった。 見た目の割りに優しいところだとか、生徒会で挨拶してる姿が格好いいだとかそんなことを言うのかと思ったら、意外にも顔だというシンプルな回答に笑いそうになったっけ。 顔ね。確かに、顔だけはいいな。 それは俺も納得だ。 生徒会長サマのどこが好きかと聞かれたら俺も強いて挙げるとすれば、顔くらいしかない。 だけど全然タイプじゃないし、ムスッとしてることが多いから可愛げがない。俺みたいに作り笑いでも常にニコニコしてれば敵も作らず面倒事にも巻き込まれないのに、バカな奴。 それに比べて純希はいつも笑顔でうるさいくらい元気いっぱいだ。悩みなんて無いんじゃないかと思うくらい常に明るくて、引き摺られるようにこちらまで笑顔になってしまう。 親衛隊なんて糞面倒臭いことを押し付けられてイライラする日もあるが、純希が俺を見かける度に嬉しそうに走り寄って来てくれる姿はいつしか俺の楽しみになっていた。 あーあ、こんなに可愛いのに、なんであいつのこと好きなんだろ。 あんなのやめて俺にすれば可愛がってやるのに。 …俺があいつみたいに男らしい顔してたら、純希は俺のこと好きになってくれてたのかな。 ついそんな事を考えてしまっていると、ふいに前から手が伸びて来て純希が俺の手を握った。 冷え性の俺とは正反対の暖かい手に包み込まれ、視線を合わせると純希は物凄い緊張したような顔付きで「好きだ」と言った後にこう言ったのだ。 「俺と、付き合ってくれませんか?」 俺の事が好き?純希はあいつのことが好きだったんじゃなかったのか? なんだかよく意味がわからない。 それでも、せっかくのチャンスと純希の申し入れを受け入れた。 純希と付き合ってみると、それはもう毎日楽しく充実の日々だった。 恐る恐る手を握ってくる姿も、寝たフリをしてる俺の髪を宝物でも触るかのように優しく触れてくる指先も、顔を真っ赤にしてキスをする顔も何もかもが可愛くて愛おしくて大切でーーーこんなにも誰かを好きになったのは初めてだと感じた。 心が満たされていると、生徒会長サマが校内でいつもように違う男とイチャつく姿を見つけても前みたいに、面倒ごと増やすんじゃねえぞ、と真顔になることが減った。 お前も早く幸せ見つけろよ、なんて優しい心で応援してやれる程に余裕が出てくる。

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