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第2話
天は二物を与えずと言うが、まさにその通りだなと聖は思う。
自分も圭も人より際立った美貌を持っているが、聖はβ、圭に至っては稀少な男性Ωだ。
こんなことなら美貌と引き換えに、αという種別を手に入れたいと心から思う。
「とりあえず、言いたいことは言い終えたのかしら?」
「これっぽっちも言えてねーけど、ま、姉ちゃんにグチっても仕方ねーよな」
「言うだけで心が軽くなることもあると思うけど?」
圭はその台詞を聞くと、カゴに入れたバッグを手に立ち上がった。
「大学だけは、卒業する。けどその先は分かんねー……Ωだってことを言い訳にすんのは癪だけど、無理しようにもできねーわ」
春のうららかな陽射しの下、加納恭一郎は大学のキャンパス内に設置されたベンチに足を組んで座りながら、腕時計に目を落としていた。
午後1時30分──、圭との待ち合わせ時間は30分前だというのに、一向に姿を見せる気配がない。
時間には几帳面な彼なのに、理由もなく遅れるのは珍しい。
恭一郎はジャケットのポケットからスマホを取り出すと、圭の番号を呼び出した。
そしてタップしようというところで、息を切った圭が「悪ぃ、遅れた!」と駆け寄ってきた。
「何かあったのか?」
恭一郎は挨拶も何もなく、圭に問うてみた。
別に待たされたことへの腹立ちはなく、ただ純粋になぜ遅刻したのかが知りたかったのだ。
「ちょっと……寝坊した。昨夜遅くまで借りてきたDVD観ててさ」
まさかΩ専門医である姉の病院に行っていたと言う訳にも行かず、苦しい言い訳を口にする。
他人に種別を問うのも明かすのも立派な法律違反なのだから、種別に関わるような話題には一切触れられない。
「そうか。腹の具合はどうだ?」
「は……?」
「空腹かそうでないのかを訊いている」
「めっちゃ空腹。さっさと学食行こうぜ」
他愛のないやり取りをしているだけなのに、通り過ぎる女子学生達が圭と恭一郎が並んで座っている様をじっと見つめていく。
フレームレスの眼鏡をかけた恭一郎も、圭とは系統が異なる知的なイケメンだから、女子にしてみれば目の保養と言ったところなのだろう。
2人はベンチから立ち上がると、校内の地下1階にある学食に向かった。
最近の大学では学食をカフェテリアなどと呼ぶらしいが、この大学の学食は、いわゆる大衆食堂といった体だ。
学生は入り口でトレイを手にし、カウンター沿いに歩きながら、好きなメインディッシュや主食をトレイに乗せて行く。
圭はメンチカツをメインに選び、ご飯を大盛りにしてもらった。
恭一郎はハンバーグとパン、最後に2人分の茶をトレイに乗せ、先に席を取っていてくれた圭の向かいに落ち着き、茶の1つを圭のトレイに乗せてやった。
「サンキュ」
「さすがにこの時間になると、学生の数が少ないな」
恭一郎はテーブル席から学食内を見回し、閑散としているなと口にした。
「葛城、お前、卒論の進み具合はどうなってるんだ?」
「順調……とは言い難いかな」
「まさか、まだテーマを決めていないということはないだろうな?」
「あ……そのまさかだわ」
きっと恭一郎は順調に進めているのだろうと思うと、少しだけ胸が痛い。
彼がαなのかβなのかは知らないが、少なくともΩではないからこそ、スムーズに進められるに違いない。
「間に合うのか?」
「分かんねー。けど、死ぬ気で間に合わせるから心配すんな」
4年生ともなると、受ける授業が3年生までとは違って格段に少なくなる。
恭一郎と顔を合わせるのは、今日のように午後の授業が1コマだけある日のみだ。
「就活はどうなんだ?」
「履歴書書きまくって、応募もしまくってる。けど、残念ながら面接まで漕ぎ付けらんねーんだよな」
「履歴書の書き方がまずいんじゃないか?」
「かもな」
嘘を吐くのはイヤだなと、心から思う。
就活用のスーツを着て、あちこちの会社に面接に行けたらどんなにいいだろう。
だが現実には圭は履歴書を1枚も書いておらず、どこの企業にも応募できていない。
ヒートの合間を縫って卒論について考えるのが精一杯で、就活にまで手が回らないのだ。
「恭一郎はどうなんだよ?卒論とか就活とか、進んでんのか?」
「問題ない。卒論はほぼ仕上がっているし、就職先も決まりそうだ」
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