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第11話
圭がメモを読むことはなかった。
とてもではないが、今は勉強のことを真剣に考えられそうにない。
ここは恭一郎の言う通り、ヒートが終わってから検討すべきことなのだろう。
圭はそう結論付けると、メモを背後の食器棚の抽斗にしまった。
「手伝ってもらうかどうかは……まだ決められねーけど……ありがとな」
「いや、気にしなくていい。それで、これからお前はどうしたい?」
「どうって……また眠剤飲んで寝るしかねーよ」
「だが、抑制剤と睡眠薬の併用はあまり身体によくない。葛城先生にそう言われているんじゃないのか?」
確かにそうだ。
そもそも聖が睡眠薬を処方するようになったのは、圭がヒート中に疼いて仕方がない身体を持て余し、「できることならずっと眠っていたい」と主張したからに他ならない。
当然聖も最初は渋っていたが、眠剤を服用することで楽にヒートが乗り切れたという圭からの報告を聞くと、それからずっと出してくれるようになった。
「お前、俺が相手ならいいと言ったな?」
「……あん時は混乱してたから、思ってもねーこと口にしちまった。忘れてくれ」
「混乱している時こそ、人は本音を口にする」
「相変わらず、屁理屈言いやがるな?ほっといてくれていいっつーの」
だったら恭一郎が自宅に帰っている間に送ってきたLINEは一体何だったのか。
それを問うと、圭は気まずそうに目を逸らした。
「……前言撤回、ほっとかれるのはやだ」
「じゃあどうして欲しい?」
「そんなの……俺の口から言わせんな!」
こうなったらもうヤケだ。
恭一郎に悪意がないことは分かっているが、これ以上恥ずかしい台詞を言わせないで欲しい。
「ふ……」
「っ!?」
慌てて恭一郎の顔を見れば、彼は珍しく綺麗な微笑みを顔に浮かべながら、眼鏡の真ん中を押し上げていた。
「な、何がおかしいんだよ!?」
「素直なのかそうでないのか、相変わらず分かりにくいヤツだと思っただけだ。まあいい、俺もどの道そう長く持ち堪えられそうにないからな」
恭一郎は眼鏡を外してテーブルの上に置くと、立ち上がって圭の背後に回り込んだ。
そして左側に垂らした髪に後ろから触れてくる。
「後悔しても、喚くなよ」
「だ、誰が……」
騒いだりするものか。
恭一郎が本当に抱いてくれると言うのなら、圭に拒む理由などあるはずがない。
ずっとずっと好きでたまらない相手なのだ、嬉しいに決まっている。
腕を掴まれ上に引っ張られると、圭は椅子から立ち上がって全体重を恭一郎に預けた。
相手も圭のことをちゃんと支えてくれる。
背中に両腕が回され、見た目の割に逞しい胸板に顔が押し付けられた。
「一つ確認してもいいか?」
「何だよ……?」
圭は恭一郎の腕の中にいるのだと実感し、完全に脱力してしまっていた。
「抑制剤はピルと同じ働きをするとネットに書いてあったが、事実か?」
「……ああ、そうらしい」
恭一郎はその返答を聞くと、圭の肩を抱き寄せながら寝室へと移動した。
すっかり暗くなった室内に明かりを点け、圭をベッドの上に寝かせる。
あまり明るくても恥ずかしいと感じた恭一郎は、互いの顔が認識できる程度まで部屋の照明を落とした。
「初めてか?」
「そーだよ……悪い、のか?」
応じる圭の口調は弱く、恭一郎はふっと笑って彼の頬を撫でてやった。
「いいや、全然悪くない」
そう言って、唇を圭のそれに重ねる。
身体に纏わり付くバニラの匂いが一層濃くなり、恭一郎の性欲をこれでもかと煽ってくる。
恭一郎はただ触れ合うだけのキスでは物足りず、一旦唇を離すと、噛み付くように口を開けてキスを落とした。
圭の口も開かれていて、そこに自分の舌を挿し入れ内側を舐め回し、彼の舌を根元から吸い上げる。
唇も唾液も甘くて、どんどんセックスという行為にのめり込んでいく自分が、少しだけ怖いが、やめられそうにもない。
恭一郎は圭が上半身に纏っていた薄手のトレーナーを脱がせると、自分もシャツを脱ぎ捨ててジーンズのホックを外した。
「んッ……」
上体を傾けて屹立しつつある乳首を口の中で転がせば、圭の口から甘い喘ぎが洩れた。
思った通り、乳首も甘い。
少し上体を起こして耳を甘噛みし、首筋から鎖骨にかけて舌先でなぞるが、どこもかしこも甘かった。
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