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第13話

1週間後──。 「あ……も、だめ……」 圭は恭一郎を受け入れ、身体を揺らされながら、もう限界なのか目の前に星が散るような錯覚に陥っていた。 この1週間、まともに食事もせずにセックスに明け暮れ、恭一郎の方も疲労困憊状態だ。 それでもまだ圭を抱けるのは、大分弱まったものの、あのバニラのような匂いが漂っているからだ。 この匂いはまるで催淫剤のようで、「これ以上は無理」と自覚しても、そんな決断を嘲笑うかのように恭一郎の性欲を扇動し、結果圭のナカで何度も達してしまう。 「あぁっ、恭一郎……イくぅ……」 ビクン──、と圭の身体がベッドの上で跳ね、スプリングを軋ませる。 「悪いな圭、こっちはまだだ」 「あ、あ……あ、やだ……だめぇ……」 どんどん抽送を速めれば、圭は漆黒のセミロングの髪を枕の上で振り乱す。 時折顔にかかってしまう髪を、恭一郎はそっと指で払ってキスを落とした。 そして、今なら自分の気持ちを圭に伝えられるのではと、深い接吻を交わしながら考える。 多分1週間前の自分は、苦しんでいる圭を楽にしてやりたくて、彼を抱いた。 もちろん自分の性欲が煽られていたことは理解しているが、どちらかと言えばベッドの上で瞳を潤ませる彼に同情していた。 だが今は違う。 たった1週間しか経過していないのに、圭を好きになってしまった自分が彼とのセックスに悦びを覚えている。 「ひ、ぁんッ……もっと、奥……突いて……」 「だめって言っといて、お願いするのか?」 「意地悪……だって……気持ちイイ……ッ……」 恭一郎は一段と宙送の速度を高めると、圭の喘ぎに合わせて最奥ばかりを狙いすまして何度も何度も突き上げる。 「あぁぁぁ!?」 「──っ!?」 2人は同時に絶頂を迎え、しばらくベッドの上で抱き合いながら、小刻みに震える身体で抱き締め合う。 「はぁっ……、どうやら、終わりみたいだ」 覆い被さる恭一郎の背を撫でながら、圭は身体の奥の疼きがすっかりなくなっていることを実感した。 「つーか、この1週間で何回ヤったんだろうな、俺ら?」 「知らん……俺でよかったのか……?」 圭はその問いを聞くなり、ギュッと力を込めて恭一郎を抱き締める。 「お前がいいって俺が言ったんだ、後悔なんてしてねーよ」 「卒論……」 「は?」 「終わったのなら、卒論のことを考えてもいいんじゃないか?」 そう言えば、恭一郎がテーマをいくつかピックアップしてくれていたことを思い出す。 1週間も前の記憶なのであやふやだが、確か手伝ってくれるとも言っていたのではないだろうか。 そんなことを考えていると、ベッドサイドに置いた圭のスマホがけたたましい着信音を立てた。 圭は恭一郎を引き剥がすと、スマホを手にして電話の相手を確認する。 液晶には「奥寺教授」と表示されていた。 「はい、葛城です」 電話に対応しながら、薄いタオルケットを肩にかけてダイニングルームに出て、部屋のドアを後ろ手に閉めた。 『葛城圭君の電話かね?』 電話の向こうから、初老の男性の声が聞こえてきた。 圭に残酷な未来を突き付けてきた張本人の声かと思うと、先ほどまでの恭一郎との甘い時間が記憶から消えてしまいそうだ。 「はい。おはようございます、奥寺教授」 『そろそろ返事が欲しい時期なんだがね』 言われて、圭はダイニングテーブルに置いてある卓上カレンダーを見つめた。 今は4月の半ばで、もうすぐゴールデンウィークに突入するところだ。 「まだ4月ですが……」 戸惑い気味に応じれば、奥寺は「そんなことはない」と反論してきた。 『我々の研究のスケジュールを組む上で、君の返答が必要になっている。大学の予算というのは、毎年4月に下りるものだ。同時に来年度の予算についても、今から考えなければならない』 なるほど、そういう仕組みなのかと、圭は食器棚へと歩み寄り、引き出しを開けて恭一郎が書いてくれた論文のテーマ候補を見つめる。 「先日送っていただいた書類にサインすればいいんですか?」 『そうだ。急いでくれるかね?』 「……分かりました。では、失礼します」 恭一郎のメモの下に、今在学している大学からの封書が入っている。 圭はスマホをテーブルに置いてそれを手にすると、封入された「同意書」を見つめた。

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