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第14話

ちなみに奥寺教授というのは、圭と恭一郎が通う大学に併設された大学病院の教授だ。 圭が男性Ωだと知った奥寺は、「稀少な男性Ωゆえに、今後のためにあらゆるデータを採取したい」と申し出てきた。 「同意書」の中に書かれているのは、圭が被検体になることについての記述であり、これにサインをして先方が受領した時点で有効となる。 もちろん被検体となる圭には、それ相応の金銭が支払われる。 つまり卒業して就職をせずとも、同意書さえ送ってしまえば、収入に困ることはないのだ。 「圭、どうかしたのか?」 しばらくその場に立ちすくんでいると、背後に恭一郎の声が聞こえて、圭はハッとした。 「な、なんでもねーよ。それより腹減ったよな?何か作るから、待ってろ」 久しぶりに身体が軽くなったのに、たった一本の電話が心を重くせしめている。 とにかく恭一郎の顔を見てはいけないと、圭は俯いたまま部屋に戻って箪笥を開け、下着とスウェットを身に付けた。 「っ!?」 そんな中、背後から思い切り恭一郎に抱き締められ、圭は息を詰める。 「き、恭一郎……?」 「あまり安売りする気はないから、1度しか言わない。お前が好きだ」 「──っ!?」 どうしてこんな時に、告白してくるのだろう。 被検体になろうという覚悟なら随分前に固まっていたはずなのに、好きな人からたった一言「好き」と言われただけで、そんな決意が音を立てて崩れていく。 「お前はどうなんだ?」 「お、俺は……」 同じ気持ちなのだと告げたい。 1週間前に恭一郎をベッドに誘った時よりも、もっと好きになっていると伝えたい。 でも、「好き」と言おうとすると途端に言葉が詰まって声が出なくなってしまう。 「圭?」 「か、勘違いすんなって!ヒート中はさ、誰でもいいって思っちまうんだよ!お前じゃなくてもよかったっつーか……たまたま今回身近にいたのが恭一郎だっただけっつーか……そんだけだ!」 すると、益々力を込めて抱き締められた。 「早口になって、口調が荒くなっているな。嘘を吐く時のお前のクセだ」 「!?」 「俺はお前に好かれていると思っている。だから名前の方を呼ぶようにした」 ああ、恭一郎は自分に心を許してくれているのかと、圭はようやく理解した。 それに、圭の嘘を吐く時特有のクセまで見抜いている。 ならばいっそ喋ってしまえばいいのかもしれない。 どうせ長く隠し通せることでもないのだから。 「大学の医学部にさ、俺スカウトされてんだよ」 「スカウト?どういう意味だ?」 「お、男のΩが少ないから、被検体になってくれって……色んなデータ採取されて、その……ヒートん時の性欲とかも観察されるらしいんだけど……結構な稼ぎになるって……」 「就職はムリよね」という姉の言葉は正しかった。 月に1度、1週間も休む社員なんてどこの会社でも願い下げだろう。 だが大学病院での被検体であれば、話は別だ。 この界隈では圭以外の誰にもできないことなのだから、Ωにしてはマシな未来ではないだろうか。 「お前、その話を受けるつもりじゃないだろうな?」 「悪いのかよ?今の俺1人より、将来の男性Ω10人が救われるかもしれねーんだぜ?」 「顔も名前も知らない将来の10人より、俺は今、お前のことを大切に想っている」 「っ!?」 こんな風に止めてもらえるなんて、考えてもみなかった。 「被検体」という言葉には反感があるが、研究の糧になれば、こんな自分でも社会に貢献できるのだから有り難い話だと、ずっと自分に言い聞かせてきた。 「なぁ、恭一郎?」 「何だ?」 「なんで、俺はΩなんだろうな……?」 「俺と結ばれるためだろう。まあ、お前がΩであってもなくても、俺達はこうなっていたのかもしれないな」 それは恭一郎がこの1週間ずっと考えていたことだった。 もしも圭がΩでなかったら、組み敷いて一物を埋め込んで抽送していたのかと。 もしも圭がΩでなかったら、縁のある女性とこういう関係になっていたのかと。 そうして得た結論は、圭の種別は関係なく、遅かれ早かれ彼を好きになっていただろうというものだった。 これまでの恭一郎には、ただ時間がなかっただけだった。 聖のこともあり、圭について真剣に考えるゆとりが持てていなかった。

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