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 しかし、晴人の好意は自分の好意とは違ったということか。  そうでなければ、セックスなどできないだろう。恋慕として好きでもない相手に、しかも男相手に勃起なんてするだろうか。  ―――あ、  ふと、思考に色が指す。つまり、肉欲込みの好意。そうでなければキスを強請ったり、あんな鋭い執着の目を向けたり、逃げられないほどに、束縛したり、そんなことをするのだろうか。  つまり、それは、  憧れだった男が、恋慕として好意を向けてくれていたということか。  よく判らない優越が、口許をにやけさせる。じわじわと胸が熱くなった。    「食い終わった?」  椀から顔をあげる。上半身裸のままで晴人がたっていた。臍の窪みに、シルバーのピアス。前髪から滴《した》った水滴が、頬に落ちる。それが肉の削げた輪郭を辿って煌めく。  その頬を伝った輝きが、網膜に焼き付いている。  被さるのは理不尽に上層部《うえ》と対立して悪者にされても顔を歪めなかった出版時代の晴人。どんな理不尽も、窮地も柳のように受け流し、感情を露出させることなど、ない人。その人の、涙。  「はい、」  「食器、下げとけよ。洗うから」  晴人が後ろを通って、テレビの前に進んだとき、耳の奥がキンとした。毛羽だった畳の上にベッタリと尻を着き、乱雑に髪を拭く。腕の動きに会わせて肩胛骨が動く。しがみついた背中の熱さが、掌に還ってくる。肩胛骨の下、薄く赤い線が走っている。しがみついた証拠が、消えそうになっている。  泣くほど。  後悔したんですか。  酷いことをしたと自負しているんですか。  俺が離れていくのは嫌ですか。  泣くほど。  「はる、」  「先寝るぞ」  呼び掛けた声は聞こえていなかったようで、1度途切れたら再び言葉にするのはためらわれた。  「俺も、風呂入って、寝ます」  しなやかな背中から目をそらして俯いた。上気した顔が、椀の中に写る。それに蓋をするように茶碗を重ね、煮魚の皿に乗せた。  もし、確定事項だったとしても、聞けない。  心音が高鳴る。  尖った乳首がジリジリして、鳩尾が苦しい。  もし、自分の考察が正しければ。  吐き出した息が色めく。  抱かれることを想像してしまう。  乱暴に、貪られる。  ―――泣くほど。それほどまでに、俺を好いてくれてるって、ことですか。

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