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 その身体を引き寄せて、背中に腕を回す。強引さに反った胸の上で突き出された乳首を吸った。  目の前でそんな風にされたら、理性の箍たがなど、あってないようなものだった。求めていた『もう一度』のチャンスを与えられるのなら。  「ア、ん……」  唇で抓るように噛むと尿道口で留まっていた先走りがたらと竿を伝う。掌が晴人の頭を抱え込む。掌は冷たいのに、抱き寄せた躰は熱い。舌で舐め上げ、押し潰す。薄い皮膚に乳頭がめり込んで、しこったそこを尖らせた舌先で上下になぶる。  ビクビクと、肩が、腰が戦慄く。  「ふ、あ」  背中に回した掌から一史の鼓動を感じる。  この状況はなんなのだろう。  許されたということなのか?  感情は別にして、ただ性欲を満たすために使われているということなのか?  それとも、  「あ。」  乳首に触れるだけで(しとど)濡れた性器の根本に指を這わせる。下生えに指を絡ませる。ぐく、ぐくと、一物が背伸びするのが気配でわかる。  触れずに、指で周回する。前歯で右の乳首を引っ掻く。細切れの声が、熱い吐息を孕んで仄暗い部屋を情欲に染める。  この行為自体が幻みたいに。  「あ、ゃ」  頭上で赤い声がする。熱に潤んだ、耳から情欲を、嗜虐心を駆り立てる声だ。小さな乳首に噛みついて、血が出るほどにしてしまいたい欲求を圧し殺す。何度も前歯で挟んでは離す。引っ掻いて、左の乳首を同じように爪の先で引っ掻く。  「ン、あ、あ」  膝立ちのままかくかくと腰が揺れる。盛りのついた犬みたいに。一史の手が俺の衣服に触れる。触れて、その襟首を摘まんで、何か言いたげに弄る。揉みしだかれた衣服の布が首裏で衣擦れの音をさせる。  「何?」  もっと触れたいのに、気配に邪魔される。  躊躇いがちに見下ろされた。惑うように呼吸を整えて、その間も指先は晴人の衣服に触れる。  「あの、」  歯にものが挟まったような躊躇。  「何?」  「っ……」  突き上げてくる衝動に気持ちが急く。竿を垂れてきた先走りを指先で拭い上げた。誘惑の上手い躰。  「晴人さんも、あっ」  掬い上げたままの指先で裏筋を撫で上げ、鈴口に押し付ける。  「あ、あ、」  腰が更に仰け反る。仰け反って言葉を遮る。  「俺も、何?」  ひくひくと断続的に震えながら一史が瞼を開く。  「晴人さんも、脱いでください」  初な生娘みたいな物言いに、心臓がぎゅっと縮まる。どれだけの人間をそうやって誘ってきたのかと邪推してしまう。一史の手が、薄いアンダーシャツを引っ掻く。引き上げて、背中が出る。持ち上げて、脱がそうとする。素肌に密着したそれは容易には脱がせられず、惑いながら痺れを切らしているのが判る。  「脱がせてどうするんだよ」  「いっ……」  乳首に噛みつく。こりと、口の中で逃げる。舌で掬って上の歯でまた齧る。鉄臭い味がした気がした。  「いた、い」  痛いのが好きなくせに。自分から誘って、犯されようとしているくせに。  「犯されたいと思ってるのか」  ぐくと、一史の喉が動いた。唾を飲み込む音。ひくひくと性器が揺れている。指先を押し付けられた尿道口がパクパクと開閉して指の腹をくすぐりながら濡らす。  「俺は、犯したいって言ったぞ」  それに対して服を脱いで応えて来たのはどういうことなのか。その行動の真意がつかめない。潤んだ目が煌々と光っていた。  「……裸で抱き合いたいって言ったら脱いでくれますか」  それが何を意味しているのか判らなくてじっと、一史を見つめた。相変わらず水を湛えた目は外の照明を反射して輝いていた。その瞼が閉じて、開く。開いた時には逸らされている。  「……そんなに、見ないでください」  唇を突きだした不貞腐れたような表情。指先がアンダーシャツを引っ掻く。甘えた素振りが熟練された手管のようで疑ってしまう。  相当の好き者で、今はたまたま、特定の相手が途切れているから、俺を繋ごうとしているのかもしれない。用があるのはセックスできる身体だけなのかもしれない。  「晴人さん」  甘い声が、誘うように呟く。  それでもいい。  いいと思う。

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