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 行き場を失った顔は行き場を失ったまま、きゅっと、下唇が丸まる。萎れた顔の犬みたいだ。身体は大型の猫属を思わせるのに、晴人の顔は忠実な犬を想起させる。  「……それでも、いい。」  丸められた下唇な力が加わって白っぽくなっている。寄せられた眉根は許容を表す表情じゃない。  「今、そばにいるなら、今、離れないなら」  今にも泣き出しそうに歪められた顔。本当はそれじゃ足りないことを如実に語る表情。  嘘をつくのが苦手な人。  「じゃあ、十分、ですよね」  でも、それに騙された振りをする。自分の感情を確定するのは、やっぱり、躊躇われる。  肩を押し返し、うつ伏して晴人の下から這い出る。腰に巻いただけのタオルが引っ掛かって剥がれた。半身を起こした晴人の眼前に生白い尻が露になった。  解放された体に室温は少し寒い。ベッドに胡座をかくと睾丸の上に性器が垂れた。  「セックス、してもしなくてもいいなら、したって、いいでしょう?」  正面から見詰めると曖昧に開いた口と、垂れ下がった眉がこちらを見ていた。  セックスしないことが不満なんじゃない。  ただ素面のまま抱き合って眠る気恥ずかしさがあった。  「晴人さんが、萎えた、って言うなら無理強いはしませんが」  また、眉根に皺が寄る。こんなにも、表情が豊かな人だったのかと、知るほどに驚かされる。  「萎える、筈がない」  そうでしょうね。さっき誘ったから、判る。同じ男だから、判る。  その頬を掌で包んで唇を押し付けた。背を向けて、膝を開き、尻を突き出して頭をシーツに埋める。  「折角キレイにしたんだから、挿入(イレ)てもいいでしょう?」  双丘を自ら割る。それだけで容易に形を変えた後腔がきゅんと疼いた。

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