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バックからだったら、股関節が痛くなることは多分ない。
「ンァ、あっ!」
猫が伸びをするように顔を押し付けられたまま、背が伸びる。胸がシーツに押し付けられて苦しい。
「アぐっ!」
内部 に挿入 った一物がピストンの度に背骨を腹側から持ち上げる。その一撃一撃が重く、突かれる度に衝撃で声が出る。重くなる腹に藻掻いて無意識に体が逃げる。それを阻止しようと、晴人の手が腰をつかんで引き寄せる。
「ひぐっ!」
目の前がぶれる。反り返った性器の先端が内壁をごりごりと擦る。骨が削れるような感覚、内部から侵される。
「う、あ」
頭を押さえつけられる。荒い息遣いが耳に聞こえるばかりで声が、晴人の声が聞こえない。自分を侵しているのが、抱いているのが本当に晴人なのか判らなくなる。
「はる、さん、はると、さん」
自分のものとは思えない掠れた、怯えたような声がシーツの波間で漏れる。
返事は、ない。
黒い、水族館で水を仰いでいたときとは違う恐怖が胸の中に芽生える。あのタイミングで人が入れ替わることなど、絶対にない。絶対にないはずだ。それなのに、正面に見据えたとき、確かに晴人だった顔が、急に朧気になって不安が芽生える。
顔が見えない恐怖心は思っていた以上に心臓をざわめかせる。
「あ。あ、ア!」
萌芽した不安は急速に胸中で蔦を巻き、上手く息ができなくなる。それなのに突かれる度に嬌声が口を割る。
この声を、誰に聞かれているのか。
肘を突き、腕を伸ばして上体を起こそうとする。その背中を誰かの手が押す。その力強さに持ち上げた上体はすぐにベッドへ沈められる。
「ヒ、ィッ!」
爪の食い込む感覚。ぴりと、背中の皮膚が痛む。
「あ、アァっ!」
肌が粟立つ。背骨が疼く。耳が幕を張ったように遠い。水の中みたいだ。
溺れる、みたいだ。
溺れて、しまう。
シーツに爪を立てる。蔦を巻いた恐怖が、不安が喉から溢れそうになる。息が。
「晴人、さん、晴人さん!」
抱き締めてほしい。声を聞かせてほしい。ここにいると教えてほしい。傍にいることを。
「ぅあ、」
上体が上がる。背中に熱い胸の感触が触れる。両腕を取られて、晴人の膝に正座する。
「一史」
「ぅあ、あ。アァっ!」
耳を擽るその声が、より深く体内を抉った固い楔が像を結ぶ。ちゃんと、晴人の姿を形作る。手首を解放した手が、足を立てさせる。背後からの挿入が深くなる。反射的に足に力を入れて腰を浮かす。背中に触れる体温が、首に這う掌の熱さが強引に後ろを向かせる強さが、
「んっ!」
突き立てられる舌。絡まって吸い出されて噛まれる。晴人の膝の上で腰が反る。
「ンーーーっ!」
角度を変えた瞬間、腹の中でごりゅと鈍い音がした気がした。目の前が明滅する。足首を取られる。体が浮く。晴人の上に全体重がかかる。
「んはァァァァァっ!」
最奥の、さらに奥、挿入 っちゃいけない、深いとこを抉じ開けられる。耳の奥がツンとして臍の下まで晴人が来てる。そんな幻覚に捕らわれる。
「アァ、イヤ、だめ、だめです、奥、は」
「ナカ、ちゃんと洗ったんだろ」
洗った。確かに、ちゃんと洗浄はした。セックスのあとで汚れた自分を見られたくはないから。でも、
―――そんな、結腸 までは……。
腹が突き破られそうな感覚。骨が肉に削られて痛いような快楽が乳首までしこらせる。
突き出した胸の上で尖ったそこは触れられることもなく腫れ上がっていた。じんじんと熱を持って痺れて、チンコにまでその疼きが伝染する。結腸の入り口を貫いたまま、動きが制止する。あちこちが痺れて、疼いて、もどかしさに一史は身悶えることも出来ず、俯いて唇を噛んだ。
「キレイにした分、汚させろよ」
唸る声、肩口に噛みつく歯の堅牢さ、前に滑ってきた指が胸を撫でる。
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