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 口元を拭って、水分の補給を締めた。  ひとつ息を吐いてキャップを戻し、ボトルを持ったまま一史の向かい合うローテーブルに置いた。  「だからといって見苦しいものまで晒しておく必要はないだろう」  細やかな言葉だけで、胸が苦しく締め付けられる。意識して唇を閉ざしていないと変に口が弛みそうだ。一史はメニューを開いたままで伺うようにこちらをみていた。  その唇が、一瞬開いて、閉じる。閉じて、開いた。  「自分から招き入れたものを、見苦しいなんて思いませんよ」  音を立ててメニューを閉じた。閉じて、椅子から立ち上がった一史の体がテーブルを挟んだ向こう側にある。黒い目が、濡れた前髪の狭間からじっとこちらをみていた。淡く開いた唇。呼吸に合わせて胸が穏やかに膨らみ、しぼむ。時々、深い呼吸の合図のように、肉の薄い腹が膨らんで、凹んだ。  臍の下、白い肌に黒の濃い幾ばくか。その下には。  「晴人さん」  掠れたままの声で名前を呼ぶ。  自分と同じものをぶら下げていながら、それに嫌悪を抱くことはない。むしろ、昨晩あんなに犯して、貪って、射精して抱き潰したのにまだ喉が乾くような欲求に苛まれる。  「俺も体流してくる」  それ以上見ていたらまたどうしようもない衝動に駆られそうで目をそらした。眩暈がするような欲望をどうにか押し潰して息を吐き出す。  「腹の調子良くなったら、帰るか」  「晴人さんが出たら帰りますよ」  「腹は?」  「多分、大丈夫。」  一史は下腹部を軽く擦って椅子に座り直す。  「この時間なら、道路も空いてるし」  窓の外を眺めて呟く。  「ねえ、晴人さん、」  硝子の向こうに露天が見える。  「一緒に入りますか」  まだ濡れたままの髪に、口中に満ちた唾液を嚥下した。

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