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 夢を見ながら、これは夢だと思うことがある。  メタ感があると言うか、妙に客観的な感があると言うか。夢の中の自分が小学生位だったから、一史はこれは夢だと判断した。小学生の自分は夜の水族館にいる。水槽には海洋生物が悠然と泳いでいる。目の前に広がる水槽では鰯が団子をつくって泳ぐ。その下で、イタチザメが摘まむように群から離れた者を補食する。目の前をマンタが下から上に上っていった。菱形の凧のような動きだった。隣に人の気配を感じたとき、自分の姿はブレザーを纏った中学生に成長していた。光を遮った影に天井を見上げる。  眼前一杯だったはずの水槽はいつの間にか自分を取り囲んでいた。水中のような息苦しさに胸一杯に酸素を吸い込む。吐き出したとき、ごぼ、と口から泡《あぶく》が出た。慌てて口を押さえたが、泡は歪な球形をしながら上へ上へと上がっていき、見えなくなった。その後をピラルクーが横切っていく。隣を、アロワナがひらひらとついていく。  大丈夫。  2匹を見ながら、安堵が胸を満たす。  誰だか判然としないまま、隣にいる男の指に触れる。  大丈夫。溺れない。  透明な青とキラキラ光る銀の鱗に囲まれながら安堵する。

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