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教え、ないで。

 そんな提案が、出されるだろうことはわかっていた。たぶん、マサキは初めからソレを求めていた。  箸を置いて息を吸って、吐き出す。緊張に充ちた面持ちでマサキは一史を見つめている。こういう目を、向けるということは、自分とはちょっと違う境遇なんだろう。もう一度息を吸って、吐き出す。  「無理だよ」  マサキは顔を上げて唇を噛む。俯けば溢れ落ちるような涙を湛えたままで、その頭を落とす。溢れると思っていた涙はその雫を見せずに、ただぐくと, 息を飲む音が響いた。  「……都合、いいじゃん」  肩が震えている。その震えは拒否した一史に向けられたものであり、人に縋るしか出来ない自分の無力さを罵るものであることを、一史は知っている。子どもの時分に自力でどうにか出きることなど、たかが知れている。たかが知れているからこそ、『誰』に、『どこ』に頼るかを間違えてはならない。  「同性愛者なんだろ。子ども出来ないんだろ。じゃいいじゃん、自分の子どもだと思って育てればいいじゃん!あんたならできんじゃん!」  顔を上げて鋭い目で責め立てる子どもを見ながら、それはどうかなと、一史は思う。赤ん坊の世話は知ってる。知っているから出来る。出来るのと、育てるのとではまったく意味が違う。  「無理だよ。」  「何で!」  「法律上、君たちには保護者がいる。」  きつく、きつく、拳が握られる。こういう憤りを過去にも見た。同じような憤りを、感じたことも、あったはずなのに、自分はいつから憤らなくなっただろう。憤りは、期待の裏返しだ。憤らなくなった自分は、期待を、しなくなったのだろう。  「他人が親権を持っている子どもを親権を有しない人間がどうこう言ってもどうにもならないんだよ。」  これは、事実だ。成人しない限り、未成年者には成人の保護者が必要になる。そして、それは多くの場合、本人に選ぶことはできない。  「あんな、」  憤りにマサキの華奢な拳が震える。その長い睫毛が震える。細い肩がやり場のない怒りが、拳を振り上げさせる。  「あんなヤツら、親らしいことなんて何一つしてねぇのに!!」  振り上げられた拳は座卓を揺らし、熱湯を注がれた椀が盛大にこける。  「あ。」  思う間に飛沫を上げて熱湯はマサキの前腿にぶちまけられる。  「あつ……」  マサキの顔が、苦痛に歪められ、年相応の恐怖が刻まれる。

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