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抱き締め、たい。
迎えが来たのは夜の時間帯だった。正直、明朝になるものだと思っていたから意外だった。
「……ありがとうございました。」
押し出すように呟いたのは、マサキが真剣に言葉を選んでいたからだろう。抱っこ紐で抱えられたマナトはすっかり目が覚めたらしくきょろきょろと団栗眼を動かしていた。
「連絡は、取れないな」
「落ち着いて、許可が出て、気が向いたら連絡してやるよ」
「随分上からだな」
生意気なもの言いは変わらないが、刺々しさと威嚇が和らいだように感じる。それが自然と晴人に笑顔を作らせる。
「部活の連絡網に乗ってる番号なら覚えてるから」
「そうか。」
紙っ切れ1枚の情報を、マサキは何度読み返していたのだろう。11桁の番号を諳じるのは、容易なことなのだろうか。
「周防」
「……先生。」
「いやいや、どーせ転校すんだからいいじゃん、あたしと周防晴人、一対一 のカンケーってことで」
剥き出した歯で笑うマサキに少し視線をやって保護官は玄関を出た。外で他の職員と話す声が微かに聞こえる。そのタイミングを待っていたようにマサキはすっと笑みを消した。真剣な14歳の顔が、そこにあった。
「あたし、誰にも言わないよ。」
宣誓じみた言葉に傍らに立つ一史の肩がフッと力を抜いたのが判った。
「同性愛者だから子どもができないとか、酷いこと言ったけどさ、一史さんはあたしがマナトを預けてもいいって思えた人なんだ。たった1日で何判った風にいってんだって、思うかもしれないけどさ、ほんと、この人が親だったらいいって思ったんだ。だからさ、」
マサキは少し顔をうつむけて、ぐぐと喉を鳴らして涙を飲んだ。飲み込んで顔をあげる。
「周防が、相手だって、あたしからは絶対誰にも言わない。一史さんが望まないことをするのは嫌だから。困ったりするのは嫌だから。」
浮き上がった涙を振りきって笑う。頬に降ってきた雫に、マナトは目を瞬 く。睫毛に溜まった一滴を指先で払うと、マサキはもう一度、ありがとうございましたと言った。言って、背中を向けた後は、こちらを振り返ることはなかった。
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