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 普段と同じに戻っただけのはずなのに、狭いはずの部屋が広く感じるのは何故だろう。先に居間へ入った一史は肩を上げて息を吸い、大きく吐き出して座卓に着いた。  部屋の片隅にもう必要のなくなった紙オムツやら哺乳瓶やらがちゃんと片付けられている。  「……飯、食うだろ。」  横顔を見せて座った一史に話し掛ける。一史は子どもみたいに晴人を仰いだ。  「そういえば、お腹が空きました。」  全く気がつかなかったようなポカンとした口で腹をさする。  「何か作る。」  「スパゲティは、もういいです。」  視線を落として話す様に何を考え、何を感じているのかわからなくなる。シンクに入れたままのトマトソースは少し固くなっているだろう。あとで、ぬるま湯につけて解さなくちゃならない。  「じゃあ、うどん」  「結果、麺類」  晴人の提案に一史は少しの笑顔を見せる。それで漸く胸の奥の凝ったのが溶ける。安堵がじんわりと胸を湿らせる。一史に見えないように小さく笑って背を向ける。白いシャツが引き連れる感覚がした。襟首が、下方に締まる。  力のまま振り替える。視線は逸らされたままで一史の唇が開く。  「……一緒に作ってもいいですか。」  「大したことはしないぞ」  「それでもいいです。」  指先がシャツの裾を引っ掻けたままで視線が動く。黒目が俺を捕らえる。上目に、行き先を失った子どもみたいに。  マサキに居場所を作ろうと背を押した男が、今は知らない場所で迷子になった子どものように俺を見ていた。  「隣にいろ。」  シャツを掴む指に、自分の指を絡めた。力をいれて、その体を引き上げる。  大したことはしない。冷凍にした鶏モモの細切れがあった。冷蔵庫を見れば何かしらの野菜があっただろう。それを切らせて、生姜もいれて、とろみのついたスープにしてやろう。  体を突き動かした衝動が、今も胸に燻っている。

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