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腰を引き寄せて再び、肉環に埋める。
「俺から離れるな。」
一史の匂いがする。鼻を擦り寄せた胸から、俺を受け入れるために潤んだ後腔から、堪えず啜り泣く起立から。全身から甘く濃密な匂いがする。目眩すら齎すような香りに正気を保てなくなりそうだ。
「離れないと、言え」
ぐらぐらと頭が揺れる。ゆだる。早く犯したい。乳首に歯を立て返事を待つ。初めて侵したときと同じ言葉。イエスしか用意されていなかった選択肢に幅をつける。
イエス以外はない。
実質1択の答えを、自身を押し付けながら問う。
あの時は首を絞められる息苦しさに蒙昧としながら頷いたのだろうか。それとも頷いたように見えただけなのだろうか。あるいは。
「お前が離れないというのなら、俺もお前を離さない。」
「……嫌だって、言ったら?」
「離してなんかやらない。」
そんな言葉は用意されていない。俺を好きだといった以上離れないし、離してなんかやらない。元来自分は物に頓着しないほうだ。寝食に対してですら、その嫌いがある。だが、一度執着したものに対しては強欲である自信がある。失えば自分を壊すほどに、強欲で依存する質である自信が。
「もう失わない。閉じ込めてでも、俺につなぎとめる。」
「う、あ」
押し付けた一物が肉に埋まる。微かな抵抗があったように感じたが、直に、呼吸するようにゆっくりと、一史は晴人を受け入れる。
「ア、ア、あ……」
「離すなって、言えよ。」
ゆったりと腰を進めながら、先刻とは言っていることが違うと思う。どちらにしても、離れてやらない。離れることなど、どだい無理なのだ。あんな酷いことをしておいて、離れられて当然だと思っておいて、出て行かれたかもしれないと考えただけで憔悴しきった自分を、中学生 みたいなデートを仕組んだ俺を、一史は初め、体が好きだといった。今は、たぶん、俺自身を好きだといった。
好きなら、体以外を求めてくれたっていいだろう。
俺に期待して、依存してくれたっていいだろう。
「離さないでくれって。」
「ア、」
言って欲しい。その掠れた声で。縋り付いて懇願して欲しい。
じわじわと腰を進める。先端にしこりが当たる場所で腰を止めると一史の体がうねった。
「なぁ、言って。」
上目に見上げる。潤んだ目。跳ね上がった前髪が一史を幼く見せた。
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