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 射精する直前で阻まれて口があぐあぐと開閉する。手酷く裏切られたようなその表情に心臓が締め付けられて、股間が痛いくらい勃起する。  「イキたい?」  顔を覗き込んで問う。ひんひんと瘧のような呼吸をしながら一史は痙攣してる。立てた爪先ががくがく震えて、ぐぱと開いたままの指をゆっくり揺さぶる。  くちゅ、くちゅ、と粘着質な音がする。  素直に強請ればいいのに引き連れた顔で食い縛った歯で頭を横に振る。  「イきたいよね」  決めつける言い方で、強張った手首を撫でて離す。その手はすぐに一史自身の顔をおおってしまう。  足先のかくかくするのはまだ止まらなくて唇が音もなく喘いでいた。タイミングを逸した性器はぐく、ぐくと反り返りながら尿道口を開閉させる。  荒い息が色づいて見える。  赤く、赤く。  「んぐっ!」  汗ばんで濡れた肌はしょっぱい。首筋に舌を這わせるだけで、また俺の掌近くで睾丸が内側に入り込んだ。継ぎ目に親指を宛がい、柔く押す。はふはふと忙しい息が瀕死の生き物みたいで、可哀想で、俺がいないと生きていけない生き物みたいで、愛おしくて、もっと、触れていたい。俺を刻みたい。  首筋に歯をたてる。  ひくと一史の体が振れる。それは興奮なのか、怯えなのか。目をみればわかることなのに、その目は再び隠されてしまった。  「一史、」  「ひ、ンっ」  甘い鼻声。前歯を掠った動脈のしこった感触。膨らんで紅色に充血した乳首。舌で舐め上げて、脇腹の輪郭を辿る。  「……キス、させてくれたら、イカせてあげる。」  挿入したままの指で内壁をゆっくりと掻く。内壁はきゅぅきゅうと甘く締め付けてきて、ここに挿入(いれ)て、繋がってしまえたら、どんなにか気持ちいいか想像する。  苦しげに悶えて身を捩った拍子に揺れた性器を他方の手で捕らえた。  「や、ぁ」  泣きすぎか、あるいは声を出しすぎたせいか、カラカラに乾いた声は毛羽だって嗄れて一層艶やかだ。  「キスがしたい」  これはもう、殆ど告白だ。  多分、キスがしたくて、自分のものにしたくて離れられなければきっと、この感情は、きっと、限りなく、恋慕に近い。  一史の腕が、その顔を離れる。  擦りすぎて赤い目蓋の狭間で水を湛えた瞳が揺れて滲んでいる。伸ばされた腕が、胸を締め付けた。  両腕は、強い。  肩口に埋めた鼻から、一史の匂いがする。  微かに震える肩の筋肉は、力を込めすぎたからなのか。力任せに変えられようとしている、互いの関係性に怯えているからなのかよく、わからない。  よく、判らないな。   自分自身もよくわからない。  キスがしたい。  それはただの友人には抱かない感情。  泣かせたい。  それはきっと、愛おしいと思う人間に抱かない感情。  じゃあこの感情の答えは何。  恋慕のような気がしているのに、それをちゃんと整えられない。  酷くしたい。  めちゃくちゃにしたい。  ひくひくと開閉しながら悶える場所に自分を打ち込みたい。消えないくらいの傷跡を一史に刻みたい。でも、そばで笑っていてと、願う。  掌が頬を包む。  濡れた目が、水の中で揺らいでる。揺らぎながら光を泳がせている。  その光を薄い肌色の膜が覆ったとき、誘われて同じように瞼を閉じた。女とするときだって開いたままだった瞼が自然と塞いでいた。  重なった唇は乾いていた。かさついていて少ししょっぱかったのは、多分、涙か、汗のせいだろう。  重なったものが離れる。  ぎゅっと、心臓が縮んだ。  手放したくないと強く思った。  血袋の2つが離れて、もう一度重なった。  ひくと、肉環が指を締め付ける。  握った性器がびくと震う。  ここまで来たら後になど引けない。  堤防は決壊し、行為は始まってしまった。  「くぅ……ン」  合わさった唇を覆って、息も声も呑み込む。  舌で抉じ開けて堅く閉じた歯の隙間に舌を突っ込む。  上下と抽送を再開する。苦しげな呻きが口の中で聞こえる。  酸欠が脳を明滅させる。  「ンぅっ!ンッ!」  重なった胸に感じる鼓動が激しい。自分のものか、一史の物か判らなくなる。責め立てる鼓動。観念して開いた上顎と下顎の間。唾液に濡れた舌を掬い上げて噛んだ。びくと、躯が震える。背中に回された手が、強ばって爪を立てる。皮膚の裂ける音を聴いた気がした。  腹と腹の隙間に粘液が這い上がってくる。ベットリとこびりついたそれは、よくある性描写みたいに熱かったりはしなかった。  人の肌と同じ温かさだった。  「くぅ……ん……」  解放した唇から、小さく鳴く仔犬みたいな声がした。忙しない息遣いが少し深くなる。上気した頬が、絶頂まで駆け抜けたあとの虚脱した躯が、狂おしいほど、愛おしくて、壊したい(甘やかしたい)。  密着した体を起こす。脱力したままの両手首を掴んで張り付けるように頭上に留めた。両足は開いたままで、射精後のくったりした性器も、未だ指を喰ったまま、無惨に広げられた赤い肉環も俺の目に曝されている。  「っ……ふ……」  状況の卑猥さに一史は顔を逸らして膝を閉じようとする。腰骨でそれを阻んで、ゆっくりと指を引き抜いた。指先が抜ける瞬間、ふると震えたのがわかった。  口の中は凄い量の唾液が溜まってて、下腹部が熱い。すげぇ、硬い。スラックスのフロントが完全にテント張ってる。腸液とローションにまみれた手でボタンを弾く。一史の顔がじっと、それを見ていた。

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