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二言、息子??
「おい、お前に客が来てるぞ」
――仕事が終わりかけた午後19:45分。
こんな地方じゃお目にかかれないような、高級車の修理に胸をときめかせ、残りは点検だけだと車体の下にもぐっている時だった。
「客?」
「寒田 馨(さわだ かおる)さんって人」
「さわだ? かおる?」
誰?
頬に付いたオイルをタオルで拭き取りながら首を傾げた。
聞いたこともない。
「お前、もう上がれ。俺があとは見といてやるから」
なぜか、熊みたいな親父さんの表情が険しい。野生の熊みたい。
「お前」
「何?」
「避妊って言葉は知ってるよな?」
「……」
何を突然言い出すんだ。このじじいは。
セクハラか?
セクハラに眉を顰めながらも、休憩室のドアを開けた。
「あーうー」
「……」
バタン。
休憩室に、見知らぬ女云々じゃねぇ。ちっさい何かがいたぞ。
ついドアを閉めてしまったじゃねーか。
「うわわわわわわーん」
「おー。よしよし。パパったら酷いねぇ」
パパ?
一瞬しか見なかったが、俺はあの女、全く知らないぞ。
俺が首を傾げて考えている間も、ちっさい何かは、あばばばーだの、ぎゃぁぁぁーんだの、怪獣のような叫び声を上げている。
「あのさ、泣きやませろよ。可哀想だろ」
少しだけ隙間を開けて中を覗きながら、俺は知らない女に言う。
茶色の革のソファに座っている、ショートカットのちょっと目が狐みたいに吊り上っている女は、パンツ姿のスーツ。
いかにも仕事が出来ますといって、バリバリのキャリアウーマンみたいな。
オイルまみれのつなぎの作業服を着た俺とは、ちょっと住む世界がちがうような。
「抱っこして」
首が据わったばかりのような、首元がしっかりしていない赤ん坊を差しだされて戸惑う。
あんな小さな生き物を抱くなんてなんか怖くて、――尻込みしてしまう。
「貴方の子よ? 怖がらないで早く」
アナタノコヨ――?
パードゥン?
ぐいっと高く上げられた赤ん坊と、理解不明な難解英語を話されて、俺は固まった。
だが。
「パ―――」
俺にしきりにパーパー言う赤ん坊は、両手をこちらに伸ばした。
必死で手を伸ばしてくる様子が、汚れがないというか、天使というか。
とりあえず、くそ可愛い。
くりくりした大きな目に、頭は大きいのに身体は小さくて、俺の親指を握るのがやっとな小さな指。
入った瞬間はちっさい怪獣にびっくりしたが、よくよく見ると可愛いじゃん。
「お前、名前は?」
「あーあーあー」
「あああ?」
言えねぇよなぁとは思いながら、女の方へ目をやった。
「椿って言うの。貴方に関連した名前したかったから、ね。可愛いでしょ?」
にっこりと言われ、面食らう。
ちょっとこの女怖いとさえ思うんだけど。
「本当に、こいつ俺の子なの? 全然ピンと来ないし。てか、あんた誰?」
うだうだ悩むのは面倒だから、単刀直入に聞いてみた。
すると、女は拳を作り、口元に当てると笑う。
その姿さえスマートで、仕事が出来るんだろうなって隙がない雰囲気だった。
「貴方のお酒に睡眠薬を盛って抱いて貰ったんだけど、――覚えてるわけないわよねぇ」
「は?」
「貴方が欲しかったから、薬で眠らせたの。卒業式のあの日。って言えば流石に思い出すかしら?」
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