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二
卒業式のあの日って。
「ああああああ―――!! てめぇ!」
「びやぁぁぁぁぁん」
「お前じゃねぇよ!」
俺の大声にビビった赤ん坊――いや、椿が泣きだしたが、今の俺には目の前の女に怒りが湧いた。
「薬で眠らせただと? それで俺の子供だとアピールだと!? お前、何しに来たんだよ!」
「安心して。報告だけ。椿一人ぐらいなら私、養うし。認知も別にしないならいいの」
認知ってなんだ?
そーゆう難しい話は苦手なんだが。
「じゃあ、この椿は一生父さんの存在を隠され続けるんだな。グレるぞ。俺みたいに」
「……貴方がグレたのはご両親が居なかったから?」
この女、痛いところを突きやがる。
でも俺は寂いしいとか、自分の存在が分からねぇとか青春漫画みたいな理由で暴れてたわぇじゃねぇ。女顔を馬鹿にされたくなくて強いのだとアピールしていただけだから。
「両親が居ても私のように満たされずに貴方の綺麗な子どもが欲しいと思うのよ」
「……意味分からねぇ。お前は顔が綺麗なら俺じゃなくても良かったんだな」
綺麗だと言われる顔が嫌だった俺にとっては、最大の屈辱だった。
「綺麗な顔に生まれた貴方には分からないかもね」
「お前、別にブサイクじゃねーじゃん」
俺が疑問をぶつけると、馨は静かに笑った。
だが俺が言った事には、何も返事はしなかった。
謝りもしない。ただ黙って、椿を奪い返すと名刺だけ渡して帰って行った。
あの可愛い怪獣は俺の子ども。
でも俺が会いに行くには奇妙な関係だ。俺の意思じゃねぇとしても、あの怪獣には父が居ないまま知らないまま大きくなる。
ざわざわと気持ち悪い風が吹く。
バイクのキーを回しても回しても、エンジンがつかないような、――気持ちの悪い風が。
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