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三
「さん。――太陽さんっ」
「――あ?」
修理に使う工具セットを開けたり閉めたりしながら、ただ飛行機が流れていくのを見ていた。
飛行機が通った後に綺麗な飛行機雲ができると晴れだとか晴れじゃないとか。
晴々しい気持ちになりたかったのか、はたまた俺にできる修理車が来なくて暇だったのか。
頭に浮かぶのは、あの甲高い声で泣く小さな怪獣の事だ。
「もう。太陽さん? 熱でもありますか?」
ピタリと俺の額に当てられたのは緑の額。目の前に眼鏡――もとい緑のどアップが現れて、座っていた椅子からひっくり返りそうになる。
「うわっ」
「危ないっ」
緑に腰を引き寄せられて、俺と緑は情熱的なタンゴでも踊っているかのようなポーズで見つめあった。
「――お前何で此処に居るんだ?」
「酷いです。ずっと名前呼んでたのにぃ」
「や、何で俺の仕事場に?」
ガソスタのバイトがなんで目の前に居るんだよ。
「バイト代で買ってみた単車がエンジンかからなくて。此処に修理に来たら……太陽さんが居ました。運命ってあるんですね」
寝ぼけた事を言ってるせいか首筋が痒くなりボリボリ掻きながら、店の外に置いてある単車を見た。
ボロボロの水色の単車。年期が入っている。キーを回してみるが、エンジンの音すらかからない。
「レプリカでも買ったのか? 単車なんか中古じゃなくても新品でも安いんだぞ」
「んー。でもお金が無くて。直りますか?」
俺の横で単車を心配げに覗き込む。金が無いのに健気にまっすぐ育った感じ。でも眼鏡は高級品だけど。
「ちょっと一日預からせろ」
原因というより老朽箇所を探して、部品変える事になる。値段からしたら違う単車を買う方が安くなりそうだ。
「よろしくお願いします。太陽さんは大丈夫ですか?」
「大丈夫って何が?」
「や、さっきずっとボーっとしてたから」
「あー……ね。お前さ、頭良い高校だろ?」
頭を掻きながら、もごもごと聞いてしまう。
「認知したら俺は子どもの親になるのか? 養育費とかって幾ら払うんだ?」
ズサーッ
今度は緑が頭から地面に倒れこんだ。
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