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三言、バタバタ子育て。
椿と過ごして三日目。
「おい、太陽! 太陽!」
親父さんに肩を掴まれて我に返った。
「ああ?」
「それ、ペンチじゃなくてバナナだ。俺のおやつの」
テーブルに置いていたバナナを手に取って、俺はバイクを睨んでいたらしい。
「普段からひょろくて白い肌をしてるが、お前、今日は真っ白だぞ。ちゃんと寝てるか? 食べてるか?」
いつもなら商売道具で間違えると怒鳴り散らす親父さんが、俺を心配している。
まぁ、ぼんやりしていた俺が悪いんだけど。
「寝てない。でも、椿が缶ミルクなかなか飲まねーんだ。俺、母乳なんか出ね―よ」
「ぼ!?」
なぜか真っ赤になる親父さんを無視しつつ、ため息しか出ない。
夜泣きするんだ。抱っこしても、下ろした瞬間、背中にスイッチがあるのかと思うぐらい。
ミルクを飲まないなら、そろそそ離乳食の準備を始めても大丈夫だからとは保育士さんは言ってくれたてけど。
保育園も良い保育士ばかりだけど、俺の家からは遠いから、朝起きる時間が一時間早くなった。
でも近所の保育園に転園できる空きはないし、今の保育園はすごく良くしてくれてるしで。
俺の自由な時間なんて無くなった。
「救いは、椿が可愛いことだけだ。なんだ、あの可愛さは。俺に似たのか」
「そんな口が聞けるなら、まだ大丈夫みてぇだが、無理すんなよ?」
フラフラになりながらも、なんとか定時で上がらせて貰って保育園へバイクを走らせる
残業が出来ないから、親父さんの負担が多くなるのに、親父さんはどっしり構えてくれてて、優しい。
奥さんがおかずをタッパにまとめて持たせてもくれた。
人に甘えてばかりだ。
なんだか、俺一人じゃなんも出来ないみたいで恥ずかしい。
まぁ、その通りなんだけど。
保育園の着いた時にはすっかり空は真っ暗で、残っているのも子供は数人だけだ。
ヘルメットを外していたら、急に目の前がチカチカと真っ白になって薄暗い空が目の前に広がる。
(倒れる……)
そう思った時には、もう遅い。
スローモーションで後ろへと倒れていく。
「太陽さんっ」
背中を抱きとめられて、そのままそいつは俺を抱きとめながら尻もちを着いた。
「大丈夫ですか? 話は全部聞きましたから! 太陽さん太陽さん!」
俺を後ろから抱きとめて、泣き出しそうな声を上げているのは、――緑だった。
「お前、離せ」
「離したくありません」
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