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「す」 「す?」 「好きだからに決まってるでしょう!? いつもバイクなのに電車だったから跡を着けたし、運命なんかじゃありません! 全部貴方に近づきたかったからです! なんで分からないんですか!?」 「――や、なんで逆切れしてんだよ」 好きってあれか。憧れとかそんな感じかな。 真面目で優等生なおぼっちゃまには、俺みたいにフラフラしてる奴が輝いて見えるみたいな。 「まぁ、いいや。理由があるなら。この道真っ直ぐ行って駅の前の交差点に来たら右。そこに着いたら起こして。説明するから」 「え、太陽さん?」 「悪い。おやすみ」 緑には悪いけど、眠気がすぐ傍までやって来ていた。椿に手を伸ばすと、俺の人差し指を左手でぎゅっと握った。 チャイルドシートを抱き締めるように俺は眠った。鼾がうるさいと言う緑の苦情は気にもせずに。でも本当は、俺一人に圧し掛かってきた責任は、すげー重圧で。 事情を知ってもなお、乗り込んできてくれた緑の存在は、大きかった。 「此処が太陽さんの家」 きょろきょろと部屋を見回す無礼者の緑は、なぜかわくわくしている。 二階建の木造アパートの一階の一番奥。部屋は上5つ、下5つ。 和室が二部屋、襖で仕切られ、台所にはテーブルが置ける程度には広い。 築30年だから、そこそこ古いが家賃は安いし、椿の夜泣きにも寛容な奴らばかりで助かっている。 「左の部屋はお前や椿は入るなよ。バイクの改造用の部品とか危ねーし散らかってるし」 「右の部屋は椿君のモノで溢れてますね。俺、ご飯食べたら片づけましょうか?」 壁際に椿の荷物の段ボールを並べ、布団の上にはおもちゃやた衣服を脱ぎ散らかして、――案の定、緑みたいな奴には片づけたいぐらい汚く見えるらしい。 俺は、緑が買ってきてくれたお弁当を電子レンジに入れながら、緑の腕の中で静かに眠っている椿を見る。 ぐっすり眠っている。――こんなに他人の腕の中で安心するなんて。意外と人見知りだと思っていたのに。 「片づけたり、バイトが無い日は、俺保育園に御迎えにいきますよ」 「や、流石にそこまではしてもらえねーよ。ってか、お前あの車どうしたんだ」 あんなレプリカみたいな中古車買ってた奴が、真新しい車にチャイルドシートなんて。 「ああ、――学費、学費が特別奨学金制度で要らなくなったので、ローン組んで買いました」

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