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四
「特別奨学金……お前、やっぱ頭良いのな」
電子レンジから音が鳴り、弁当を取り出すとテーブルに置く。
パチンと割り箸を口で挟んで割りながら、俺は首を振る。
「せっかく大学に行けるんだ、俺に構わず自分のやりたいことしろよ。勉強が一番だろ」
勉強なんか、よく眠れる子守唄だった俺にとっては特別奨学金なんて貰える緑を俺の人生に振り回したくねぇ。
「俺のやりたい事は、太陽さんと椿くんのお手伝いです」
「はぁ!? だから何でそうなるんだよ!」
「好きだからって言ってるでしょう!? 俺がいつ貴方を好きになって、どう近づけばいいのか色んな計画立てて、貴方をどんな風に抱きたいか、朝までじっくり御話しましょうか!?」
唐揚げ弁当を奪われた俺は、早口で顔を真っ赤にしてそう言う緑を、ただただぽかんとして見るだけだ。
「知りたくはないが、信じられん。なんでこんなタイミングで」
「こんなタイミングだからです。こんなタイミングでもなきゃ、同性から告白されても、太陽さんは簡単に断るでしょ?」
「まぁ……」
緑からからあげ弁当を奪うと、急いで口の中いっぱいに頬張る。
同性からとか寒気が走るかもしれないな。
でも好きって言っても、憧れとかそんな程度だろ。
学生時代は、ちょっとは不良に憧れるんだよ。こんな真面目ちゃんとかは特に。
「気持ちはありがたいが、お前の学業に支障を来すと後味悪いんだけど」
「俺がそんなに要領悪い奴に見えますか?」
一歩も引かない緑の目は、本気だ。
何を言っても多分、決意は変わらないんだろう。
「じゃぁ、甘えちゃおっかな。サンキュー、緑」
「え、ええ。こちらこそ」
何故か真っ赤になって眼鏡を上げる緑は、少し可愛かった。
あの眼鏡、ラーメンとか食べたら曇るのかな。
「もうちょい椿が大きくなったらラーメン食べ行こうな! 奢ってやるよ」
「え、あ、はい」
なんでラーメン?と顔に書いてある緑がなんだか面白くて笑ってしまった。
笑ったら、椿が起きてしまって緑と交代で抱っこした。
朝まで、睡眠不足で死にかけていた俺に、緑が手を差し出してくれた瞬間だった。
買ってきた弁当なのに、誰かが隣にいるだけで美味しく感じるんだから、俺は現金なやつなのかもしれない。
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