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「そんな事、もうしないで下さいね。俺も椿くんも悲しいですから」 「椿を出してくるのは、卑怯だろ。んだよ、お前は俺の母ちゃんか」 茶化した俺に、炒飯を食べ終わった緑は両手を伸ばしてくる。 「母ちゃんは、嫌ですね。もっと良い場所、開けて下さい」 椿を優しく奪うと、ミルクを飲ませるのを交代してくれた。 もっと良いポジションか。 「父ちゃんにしては骨がないけどなぁ」 「はずれです」 不満げに唇を尖らす伏し目がちな緑の顔を見つめながら、炒飯を食べる。 慈愛に満ちたマリア像よろしく、椿にミルクを飲ませる優しい表情。 穏やかで、くっきりした顔立ちに綺麗で純粋そうで真面目な瞳。 ストイックで、――将来有望そうな緑はモテると思うんだが。 「あの、そんなに、見つめられたら穴が開きます」 「お前、彼女は?」 「居るかでしたら居ません。欲しいかでしたら、――恋人は欲しいですが彼女じゃありません」 「んな遠回しな言い方やめろよ。背中が痒くなる。つまり、ヤりたい女ではなくて傍にいたい女が欲しいってこと?」 「椿君の前で、太陽さんはストレート過ぎです」 何故か怒られた俺は、黙って炒飯を食べる。――緑母ちゃんめ。 先日まで椿の世話も分からなくて、顔に粗相されていた緑の姿ではない。 ミルクを飲み終わった椿の口を拭き、肩に乗せてトントンとゲップをさせているその姿。 何故だが、俺がもっていないその雰囲気が、たまに切なくなる。 その何でも包み込んでくれそうな、大きな懐に飛び込みたくなる――衝動。 過去に貰えなかった愛情が、緑から溢れているんだ。椿に対してだけど。 「お前って、いいな」 「太陽さんの言葉は時々脈絡がありませんよね」 椿におもちゃを与え、あやしながら苦笑する。 だが、それでも良かった。 「お前の子供に産まれたら、俺はどんな人生だったんだろって思ってさ」

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