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「う――ん」 「ん? トイレ?」 緑が唸るからそう尋ねたのに、何故か恨めしそうに睨まれる。 「今は、何を言っても、太陽さんには無駄だろうから言わないけど、――俺は」 「俺は?」 「椿くんと太陽さんの家族になりたい。例え、途方もなく馬鹿で愚かな考えでも。俺は、これからも貴方の傍にいたい」 「お互い、結婚するまでは一緒でもいいんじゃねーの?」 意外にも緑が重々しく俺の言葉に返事をしてきたからびっくりした。 もっと軽口叩いてくれても良いのに、いちいち真面目に考えてくれるから、迂闊に冗談なんて言えないじゃねーか。 「結婚か。俺、一生結婚なんて出来ない気がしてきました」 「俺も俺も。緑がいるしな」 そう笑うと、緑は小さく『太陽さんはずるいですよね』と呟いた。 その言葉の重さを俺は良く知らない。 ただ、緑に甘えれば甘えるほど、緑が俺の家に入り浸れば入り浸るほど。 緑の衝動的な甘い痛みは身体中を支配し、麻痺させ痺れさせていく。 「お前、丸くなったなぁ」 「?」 オイル交換が終わり店に戻ると、親父さんが俺の顔をまじまじと見てきた。 俺はタオルで手を拭きながらソファに座る。 「そっスか?」 「昔、鉄バットで襲ってきた奴等の前歯折ったり、キスしてきた教習所のおっさんを二階の階段から突き落として車で引きずり回そうとしたとかしないとか」 「見た目で反応する奴が悪い。中身はめっちゃ俺、男らしいのにさ」 ふふんと工具セットからソケットレンチを取り出して、くるくると回す。 「今は男らしいって言うよりすっかり父親の顔になってるぞ」 「まぁ、自分の子どもは可愛いからな。親父さんは?」 奥さんはよく夜食持ってきてくれたり、毎日弁当作ってるし、親父さんと休みの日はドライブしたりしてるけど。 「あー。何回か頑張ったんだが出来なくてな。言うと不安定になるからアイツにゃ言うなよ」 親父さんが苦笑する。そんな複雑な二人にはとてもじゃないが、薬を盛られてできた子どもだとは言わない。 というか誰にも言わない。椿が大きくなった時に笑い話になるまで。

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