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「帰ります」 小さくそう言うとエンジンをかけようとした。 「ふぅぁ」 すると、小さく椿が泣いた。 「ふぁぁぁぁぁぁぁん」 せきをきったかのように、大声で泣き出した。 「どうした? 椿、よしよし」 「ふわぁぁぁぁんん」 俺の胸の中で暴れる椿は、緑へ大きく両手を伸ばした。 「椿君……」 「お前、観念して部屋来いよ。椿が寂しがってるぞ」 卑怯な手を使った。椿を出せば緑が断れないことなんて分かってたんだ。恐る恐る手を伸ばして椿を抱っこした緑は、諦めたかのように笑った。 案の定、家に着くと椿は緑に甘えて甘えて、遊び疲れてぐっすり眠るまで離さなかった。 「寝たか?」 「はい」 「じゃあ、俺らも寝ようぜ」 緑の手を取ると、そのまま敷いている布団へ一緒に飛び込んだ。 椿を真ん中に、二つの布団の上で三人で。 「なぁ」 「はい」 「俺についてる嘘ってなんだ?」 「太陽さんが俺をどう思っているかによっては意味合いが変わってくるというか」 「だが嘘をついてると」 「いっぱいついてます……」 真面目そうな顔してコイツは。 「こうして椿くんが真ん中に居なければ、俺は貴方を押し倒したいです」 「押し倒して、男の俺とエッチしたい?」 ストレートに聞いたら、緑は静かに頷く。どう返事するべきか、椿の腹を撫でながら俺は小さく『あー……』 と言葉を探す。 「俺、男となんかしたくねぇ」 綺麗だとセクハラされたり痴漢されたり、たださえ見た目で損をしてきたんだから。 はっきり言われて、緑は悲しげに微笑む何故だか罪悪感が生まれてしまう。 「が、困った事に」 椿の頬を撫でてため息が溢れてしまった。 「緑が居なくなるのは寂しいと思う」 「なっ 酷いです! 俺の気持ち知っておきながらっ」 確かに。はっきり男は無理だと言いつつ、緑とは離れたくないなんて。 「じゃあキスぐらいしてみるか?」 意地悪してみた。繋ぎ止められるならいくらでも意地悪したい。

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