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十三

「いつか話せたら話せよ、真面目くん」 「――墓場まで持っていきたいです」 上に覆い被さられても、男なのに不快じゃないのは『緑』だからだと思う。 思うけどさ。 もうちょっと強引でも良いんじゃねーのかな。 安心しすぎて眠くなってくる。いつか、全部話を聞けたらいいな。 そうすれば蟠りや、遠慮も無くなると思うんだ。 「ちょっとお前、抱き枕になれ」 椿を片方の布団に移動させて、俺は緑の背中に抱きつき、足を絡ませた。 「なっ 太陽さん!」 「うっせ。椿きゅんが起きるだろうが。あとお前固い」 抱きついてるくせに文句を言うと、緑が小さく舌打ちした。 「こんなんじゃ俺は眠れません」 「人間湯タンポ気持ちいいわ」 「今に! 今に! 今に見てて下さいね! 太陽さんが蕩けるようなキス、してみせますから!」 何か緑が頑張って言ってたみてーだが、既に眠たかった俺は、話半分聞きながら眠ったのであった。 それから、何かが変わったような、全くいつも通りに見せかけているような曖昧な日々が続いた。 その日は、千秋が仕事が休みだったらしく、二人でデートがしたいと誘われ、緑が椿を預かってくれた。申し訳ないけど、翠は割り切ってくれているのか怒ってはいなかった。 眠たくなるような映画のあと、千秋は車で。俺はバイクで帰るために、バイクで車まで送りながら他愛ない会話をしていた。 「それでさ、緑の奴がさ、椿の初寝返りでうるうるしてんだぜ。お前が父ちゃんかって」 まぁ父ちゃん並みには面倒見てくれてるけど。 寝返りもできるし足で床を蹴飛ばしてくるくる布団の上を回り出した。 その姿をデレデレ見てしまうんだから完全に俺らは親バカだけど。 「部屋で遊ばずように子供用バイクとか買いたいけど、緑がまだ早いって言うんだよ。せめてハイハイ出来るようにとか」 「あの! 太陽さん!!」 千秋が泣き出しそうな震えた声を張り上げた。 「ん?」 「も、う……」 泣き出しそうな、じゃない。 千秋は泣いていた。 「もう二人で会うの、止めませんか」 「えー……っと?」 これはもしや別れ話? そういや俺、成り行きで付き合ってたから言葉は無かった。 なのに終わる時はそんな言葉が必要なのか。そうか。 「やはり、不安になっちゃって。椿くんは可愛いけど、私、私、自分の子供が欲しいし、好きだけど、お母さんが子持ちはって大反対で怖くなって……」 ポロポロと堪え忍んで泣く千秋は、色々と不安を吐露してくれた。 それに気が付かず、打算でその好意を利用して安心させる言葉をやらなかったのは俺だ。 「安心させてやれなくて、ごめんな。ずっと俺、自分の事だけだったな」 ポンポンと頭を撫でると、千秋はワッと泣き出す。そうか。これが『別れる』という儀式なのか。 「多分、千秋が最初で最後の彼女になりそうだ」 自分の心の平穏に相手の好意を利用するのは違うと思う。 少なくても千秋といる時は、俺は緑か椿の話ばかりで。こんな風にデートなんてした事無かったから。

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