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十五

「そういや、俺、生まれた時から既に親父なんて居なかった。じいちゃんならいるけど」 俺が金髪にしたり学校をさぼったり、煙草吸ってたりすると、一階の花屋から花を切る大きなハサミで追いかけてきてた。 あのオンボロ花屋、早く潰れてしまえといつも思ってた。 「俺、愛情が欲しかったのか。そうか……」 「寂しかったんですね。いつも、明るくてそれこそ太陽のようなお人だと思っていましたが、寂しかった、見つけて欲しかったんですね」 視界の隅でばっちり、椿の寝顔を見ながら、この神様のように何でも俺を理解し受け止めようとしてくれているこの男が、初めて心の底から愛しいと思う瞬間だった。 自分でも気づかなかったら、愛に飢えていた俺を見透かして、抱きしめて受け止めて。 だから泣きたくなるのか。 だから抱きしめたくなるのか。 だから、お前の肌が恋しくなるのか。 キスしたくなるのか。 「お前、ちょっと怖いかも」 「ふふふ。心に侵入されるのがですか?」 「うるせー」 俺が荒れてたのは、行き場のない寂しさや衝動からなのか。 こうやって受け止めようと抱き締めてくれる緑の体温は暖かい。気持ちが良い。 頬を伝う涙が、淡い光に照らされていく。 その涙を緑は『綺麗だ』と言う。 舐めとった涙で濡れた唇。 嘘をついているその唇が濡れている。 艶やかに光る唇に、自分の唇を重ねた。 しっとりした感触に、塩辛い涙の味。 その日のキスは、緑の方が積極的で辿々しかったくせに、上手に舌を絡ませていた。 吸い付き、絡め、歯をなぞる。誰かの唾液が気持ちいいなんて。誰かの腕の中が心地良いなんて。誰かの眼差しが愛しいなんて。 不意に押し寄せて涙と共に溢れた感情を俺は言葉にするのは止めた。 椿が大人になるまでは一人で頑張ろうって。

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