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「だろ? 感謝しろ」 「でも、風呂の湯気で火照る太陽さんの白い肌が艶めかしいんですよ!」 「若いねぇ。慣れるために毎日見れば?」 並べられたご飯は今日は豆腐ハンバーグだった。 椿の離乳食もできている。完璧過ぎる主夫なんだけどなぁ。 「キスはしてるんだからさ、それをおかずに乗り切れ」 「それこそ、椿君の前で話す内容じゃないです。――太陽さん」 椿をクッションの上に置くと、緑は俺のお茶を持っている手を握り締めた。 「――最近、女性と遊んでないし俺との約束も優先してくれているし、そろそろ俺にチャンスくれませんか?」 「ああ? チャンス?  ってか距離、近っ」 キスするのかと緑を見上げるが、緑は泣きだしそうな子供みたいな顔をしていた。 「貴方が、好きなんです。太陽さん」 そう何回も言われたら、逃げたらいけないしいい加減腹をくくらなければ、緑の気持ちに不誠実というわけだよな。 「ごめん。無理」 だから、言い訳を省略してはっきり言った。 その方が傷つかないだろうと。 「ななな、何でですか? 一ミリも駄目なんですか? 何が駄目なんですか?」 だが、こういう理数系のやつには通用しないらしい。 「うーーん。お前、俺を抱きたそうだが、未経験だし、野郎に突っこまれるのもなぁ」 ギリ、緑なら良いのかもしれないけど、やっぱ今の良い友人の距離で居て欲しい。 恋人になったら、――千秋みたいに大きな壁が立ち憚った時、好きという感情だけでは関係を続けられなくなるし。 それに。 「俺は、若いし、周りに助けて貰ってばかりだ。椿が一人前になるまでは、ちゃんと親父を頑張りたい」 「一人前になるまでって、椿君が18歳でとしても太陽さん、36歳ですよね。18年も、ですか?」 「息抜きぐらいはさせろ。親父が男と付き合ってるってなったらさ、じゃあ俺は何で生まれてきたのかと椿も不安になってしまうだろ?」 「俺、18年待てません。キスはしちゃうんですから18年も友達だけってのもできません」 一歩も引かない緑に、頭を掻いてしまう。 うーーん。気持ちは嬉しいんだよ。良い奴って分かるし。うーーん。 「一発やって諦めね―?」 「ふざけないでくださいっ」 「お前の嘘は、大丈夫なのか?」 ちくりと話をほじくり返してやると、緑は言葉を飲みこんだ。 でも、それが正しいと思う。 「嘘とか恋愛とか恋人とか、今の俺にはいらない。今は、椿以外あんま興味ないかも。すまん」 急に豆腐ハンバーグを前に、通夜のように静かな食卓になった。 きゃっきゃっとテーブルを叩いてハンバーグに手を伸ばす椿だけ。 「その、ふられて気まずいなら、――会うの止めてもいいぞ? 今なら俺も」 「ソレは嫌です」 きっぱりとそう言うと、緑は椿を赤ちゃんようの椅子に座らせた。

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