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立ち上がり、炊飯器を開けるとご飯を盛りだす。 「好きにならせます。それまで――嘘の代償もありますし離れませんから」 「お、おう。無理すんなよ」 「貴方が言わないでください」 何故かふられた緑は、ぷりぷりと怒っている。 茶碗に山もりのご飯を継ぐが、そんなの誰も食べられないぞ。減らせ。 はっきり振られても傍に居たいほどの価値が俺にあるのか不思議だが。 まるで、贖罪のように俺と椿の傍にいる。 目的は――本当に愛情だけなのか。 そう疑問をぶつけたら、きっと今の緑は死んでしまいそうだから回復したら聞こう。 「あ、じいさんの家からの方が保育園って近いよな。爺さん居なくなったらあそこ建て壊して住めばいいなー」 「不謹慎」 くそ真面目に怒る緑は、――今にも泣き出しそうな顔のくせに冷静を装っていて。 何だか俺の方が胸を締めつけられた。  その次の、爺さんに椿を合わせてやろうとした日のこと。 それは、修理を請け負う車屋なら当たり前の風景だったのだが、今回は少しややこしかった。 金曜の午前中にやってきた緊急の、ややこしい出来事。 早めに椿を迎えに行って爺さんとこで飯でも作ってやろうと思っていたが結局遅くなりそうだった。 「悪いな、太陽。急ぎらしくて」 「いーっすよ」 店の奥で、親父さんはクリアファイルを何十個も机に乗せて、一枚一枚開いて探し始めた。 緊急の仕事が入ったのは、――警察からだった。 二年前の2~5月にボンネットを修理した車の機種と番号を探してほしいらしい。 ひき逃げの犯人が証拠隠滅の為に修理したりするので、そんな問い合わせは少なくないのだが。 今回は、機種や色が指定されていないので少しややこしく、そして範囲が広い。 急ぎの案件らしいので親父さんはそれにかかりっきりになる。 その間は俺が車検や修理、電話対応などに回らなくてはいけない。 今日は実家に帰るから来るなよと緑に釘をさしていて良かった。 アイツを今日は構ってやれる時間は無かった。 いつも親父さんの厚意で18:30に上がらせて貰って30分かけてギリギリ保育園が閉まる19時に迎えに行くのだが、今日は間に合うか分からなくなってきた。 すげぇ申し訳ないけど、――千秋に電話してみよう。 多分今からなら緑にお願いして迎えに行ってもらうのもギリギリな気がする。 そう思って、携帯を開くと着信が何件も来ていた。 ナイスタイミングの千秋だった。 「どうした? 今ちょうど連絡したかったんだけど」 『大変なの! ねぇ、今日誰かに椿君を迎え頼んだ!?』 それは、いきなり予想もしなかった話から始まった。 焦って、震えた声の千秋は説明し始めた。 基本、保育園は連絡帳に記載がない限り、保護者以外の御迎えを認めていないということ。 でも、椿は、緑という例外があること。 「どういうことだ?」

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