ゴリラみたいな大男が、ギシっと椅子のスプリングを鳴らしながら足を組み変えた。 「最近、酷い別れ方した人とかいませんかねぇ？」 明らかに俺を疑っている。 「いねぇっすね。大切だった子ならいるけど。ってか、カメラは終わったんすか？」 落ち着かない俺に、ゴリラみたいなおっさんは、太い指でテーブルに置かれているテレビをトントン叩く。 録画していた場面を見ると、大きなワンボックスカーが映りだされていた。 ――大切に子供を抱っこする女の人が映っているが、画面が粗すぎて顔や車のナンバーまでは見れない。 「ううううぅ。椿君っ」 千秋がわぁわぁ泣き出し、主任らしきしっかりした先生が、千秋を園へ連れて行く。 いつも椿を迎えに行くと笑顔で迎えに来てくれる先生たちが、真っ青で泣きだしたいのを必死で押さえて画面を食い入るように見てくれていた。 椿は意外と知らない人には警戒するはずだ。 一回でも会ったなら大丈夫かもしれないけど。 考えろ。考えろ。 「では、お心当たりがないなら、この黒のワンボックスカーの逃げた経路を追跡します」 すぐに警察の人が携帯で支持をし始める中、何も出来ない自分が嫌になる。 せめて、バイクで探そう。 ――馨が、卑怯な手を使ったことなんてもう一ミリも気にならないぐらい、椿は俺の大切な、自慢の息子だ。 ほっぺも赤くて可愛いし、両手を広げて必死で抱っこしてもらおうと伸ばす手は愛しいし。 朝、保育園に手渡した時に見た椿が、最後になるなんて、――そんなの嫌だ。 俺が守らなきゃいけないのは、大切な家族の椿だけなのに。 「華野さん、何処に行きます！？」 ヘルメットを被り、エンジンをかけた俺に、園長が声をかけてきた。 「どこって探しに行くに決まってるだろ！」 「待って、貴方の吸ってる煙草の匂いがしたって受け入れした先生が言ってたのよ！」 煙草？